第2話 その恋は罪か①
「断ったのか?」
静かな声で問う悠麒さんの声は、微かに怒りを含んでいた。視線が痛い。
「……えぇ。僕は、恋というものを理解できません。彼女の気持ちに応えられないのに、その手を取るなんて失礼でしょう。それに、相手はあの神楽家のご令嬢です。僕には見合いません」
彼女から「ならば、せめてこれを」ともらった神楽家特製のお守りを机に置くと、学校の課題を広げ、悠麒さんに説明する。
「主よ。君は高校生だろう。神楽家の令嬢とはいえ、好いてくれる人がいるのなら、その恋を楽しむのもまた一興。恋愛がわからないのなら尚更、体験してみるのも良い。合うか否かは、付き合ってみなきゃわからないものさ。彼女の気持ちを無下にするな」
何故こんなにも彼女を薦めるのか。僕には理解できなかった。
「悠麒さん。死んだ人間のことを出すのも変な話ですが、父が生きていたら絶対に反対された相手です。神守家と神楽家の因縁は、よくご存知でしょう。根本的に合わないんです」
「この話はもうやめましょう」と切り上げようとする。が、悠麒さんは僕を逃さない。
「神守家と神楽家のやり方は確かに違う。考え方も違うし、因縁もある。だが、それは過去の話だ。今を生きる君たちには関係ない」
なかなか課題が進まない。
「心無い僕に、彼女を幸せにする力なんてありませんよ。偽りの感情でやり過ごしますか? それは、あまりにも酷いではありませんか」
「主には、そうやって人のことを考えてやれる優しさがある。その優しさに、お嬢は惚れたのだろう」
「優しい人間なら、他にもたくさんいますよ。僕でなくても、代わりはいます。例えば……」
「主よ」
冷たい声が、重く伸し掛かる。ペンを動かしていた手を止め彼の方を見ると、彼がゆっくりとこちらに歩いてくるのが見えた。
「何故、そこまで拒むのだ」
近づいてくる悠麒さんと距離を取ろうと後退りする。が、椅子に座っていた僕が動ける距離は高が知れる。あっという間に、目の前まで来た彼は、僕の手を掴んで言う。
「恐れているのか? 神楽舞衣を」
思わず顔を逸らす。その瞳に真実を見透かされてしまうのが怖かった。別に、彼女を恐れているわけではない。僕が本当に恐れているのは……
「それとも」
ヒュッ、と喉が鳴る。
「怖いのは、幸せになること?」
__お前は、幸せになるな。
誰かの声が聞こえる。間違いない。僕を恨む声だ。炎の上がる音がする。
「痛っ……」
気がつけば、悠麒さんの手を振り払っていた。彼の手が、赤く腫れている。
「うぁ……あぁ……は、ぁ……っ」
なんて酷いことをしてしまったのだろう。呼吸が上手くできない。また、傷つけてしまった。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……。
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