第21話 夏祭り②
重さ、反動、弾の形、照準、姿勢、呼吸などその他いろいろ。霧玄さんからある程度は訓練を受けた。銃の扱いは実戦で使えるレベルだ。例えおもちゃでも。銃は銃。コツさえ掴めば、なんとかなるだろう。
(一回、三発)
まずは試し撃ちから。次に本命。ラストで確実に落とす。試し撃ちで一発撃つと、意外とクマのぬいぐるみが軽いことがわかった。
(あ、いける)
弱点さえ狙えば、二発目で落とせそうだ。
「お兄ちゃん、すごい……」
「すごいね。全く動かなかったのに、たったの一発であれだけ動いたよ」
「取れるかな?」
女の子からの期待の眼差しを感じる。ここで、彼女の期待を裏切るわけにはいかない。邪念を払い、落とすことだけを考える。
二発目。射的ならではの銃声と共に、目的のクマのぬいぐるみが素早く落ちる。
「おめでとうございます! ゲットです!!」
若い男性の屋台主の声が響く。知らないうちに多くの観衆に囲まれていたようで、大いに盛り上がる。今更、少し恥ずかしくなって来た。
「……はい。どうぞ」
「わぁ! やったぁ! ありがとう!!」
「どういたしまして」
「ありがとうございます! あぁ、なんとお礼をしたら良いか」
頭を深々と下げるお父さん。人柄の良さがよく伝わる。
「僕が遊びたかっただけですから、お礼は結構です。お気持ちだけ受け取ります」
そう言うと、お父さんは再度、頭を下げる。
「本当にもらっていいの?」
このやり取りを見て不安になったのか、きつくぬいぐるみを抱きしめながら女の子は問う。
「僕は家に持って帰れないから、貰ってくれると嬉しいな」
そっと女の子の頭を撫でる。すると彼女は顔を赤くして、お父さんの後ろに隠れてしまう。が、お父さんの後ろから、手を振ってくれた。
手を振り返して、舞衣さんの元に戻る。
「すみません、行きましょうか」
「大丈夫よ。ありがとう」
「何がです?」
「女の子の願い、叶えてくれて」
「僕にできることがあれば、何でもやります」
「ふふっ、優司くんらしいわ」
「それにしても目が本気だったわね」「えっ、そうでしたか?」「獲物を狩るハンターの目をしていたわよ」「お恥ずかしい……」なんて、他愛のない会話をしながら、屋台を回る。
荷物が増えることを避けたかった僕らが主に楽しんだのは食べ物だったが、それでも、祭りならではの「屋台の味」を楽しんでいた。
一通り夏祭りを満喫したところで、たくさんの花火が打ち上がる。どうやら丁度、夏祭りが終わるようだ。
「あっという間だったね」
「えぇ」
花見が上がるたび、歓声が聞こえる。
「いろいろあったけど、楽しかったわ」
「僕もです」
「この幸せも、平穏も、優司くんのおかげね」
「さて、どうでしょうね」
はしゃぎ回る子ども、写真を撮る学生、感嘆の声を上げる大人、静かに眺める老人。多くの人を楽しませている花火は、大きく、美しい姿で夜空を彩る。
「好きだよ」
大きな花火が打ち上げられる中、彼女は言う。聞こえないと思ったのか、それとも聞こえるとわかった上で言ったのか。真意はわからないが
「僕も、好きですよ」
今日くらい、しっかりと言葉にしても良いかなと思った。
彼女の顔が赤く染まる。花火の赤より鮮明で綺麗だ。しばらく花火よりも彼女のことを見ていた。すると、それに気づいた舞衣さんが僕の横腹を小突く。慌てて空を見ると、最後の打ち上げ花火が大きく散った。
今日で、終わりなんだ。
若干の寂しさを感じながらも、舞衣さんに手を握られて心は穏やかになる。
「帰りましょうか」
「えぇ、そうね」
僕は彼女の手を引いて、まだ明かりの残る夜道を歩いた。楽しそうに帰る声や、祭りの終了を惜しむ声など、賑わいは絶えず続く。そんな声を背に、僕らは月の導く方へと歩みを進めた。
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