第13話 夏休み旅行③
しばらくすると、泳ぐことに飽きた三人が、今度は食べ物を両手に抱えて戻ってくる。
「なんかいっぱいあったから買ってきたわ」
「その量、食べ切れるか?」
「暁人様、僕は止めました。悪いのは悠斗」
「テメェッ、裏切ったな奏真ァ!!」
「まぁ、いけるんじゃない? 男子高校生よ、僕ら。僕は余裕」
「俺は知らんぞ。残さず食えよ」
まぁ、幸希くんがいれば片付くだろうな。と、呑気に考えていると、後ろから殺気を感じた。僕に対するものではないが、嫌な予感がする。
恐る恐る耳を澄ませれば
「はぁ……殺して良いかな、こいつら」
「えっ!? に、人間だから! 抑えて!!」
物騒なことを呟く大鳳さんと、それを止めようと必死な舞衣さんの声が聞こえてきた。所謂、ナンパというやつだろう。非常にまずい。何がって、大鳳さんなら本当に殺しかねない。
「すみません、止めてきます」
「待て」
僕の腕を掴んで止める暁人くん。
「いや、早く行かないと……」
「悪いことは言わない。幸希を連れて行け」
「えっ、僕?」
「良いから」
わけのわからないまま、幸希くんについてきてもらう。暁人くんの言っていた意味は、彼らの前に立ってなんとなくわかった。
「あっ、優司くん!」
「えっ、優司くん?」
声をかける前に、二人に気づかれる。
「何? お友だ……」
彼女たちを囲んでいた男性三人がこちらを見て固まる。正確には、僕の後ろに立つ幸希くんを見て硬直していた。身長一八二センチ、弓道部部長、体力測定校内トップクラス。見た目だけでも『運動している人間』とわかる。一般的な日本人からすれば圧が強く、少し睨めば、恐怖するほどの体格だ。悔しいが、僕には出せないオーラを持っている。
「助けに来てくれたの? カッコいい〜!」
「ありがとう。優司くん、幸希くん」
「え、何? 何があったの?」
「……戻りましょうか」
複雑な気持ちを抱えつつ、二人の手を取り、みんなのところに戻る。
「正解だっただろう?」
ニヤニヤと笑う暁人くんから目を逸らす。馬鹿にされた気がして、ちょっと悔しい。どうせ僕は貧弱ですよ。
「結局、なんだったの?」
未だに状況を理解していない幸希くんが問う。
「安心しろ。こいつら、女子のピンチに気づかない馬鹿だから。お前には一生、敵わないさ」
「ピンチだったの?」
「……な?」
モヤモヤとした気持ちは晴れないが、
「止めてくれてありがとう、優司くん」
舞衣さんには伝わっているようだから、良いとする。
「大鳳さん、舞衣さんを助けようとしてくれたことには感謝します。ありがとうございました。しかし、相手は一般人です。戦闘は、極力控えてください」
頭を撫でてあげれば、嬉しそうに笑う。もし、妹がいればこんな感じだったのだろうかと思うと、くすぐったい。
ごく普通の少女になるはずだった彼女。この世界に染めてしまったのは申し訳ない。本当はもっと、誰か素敵な男性に守ってもらうような可憐な少女になるはずだった。
それでも、彼女が従者でよかったと。幸せになりそうな気持ちを押し殺し、僕は、軽くため息をついた。
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