第13話 夏休み旅行②
夏休み旅行当日。
「海だぁ!!」
海へと走り出す悠斗くんと、その後に続く奏真くんを眺めながら、ゆっくりと歩く僕ら三人。
「転ぶなよー」
まるで保護者のような暁人くんに失笑していると、
「ふふっ。優司くんのご友人は、意外と子どもっぽいのね」
聞き慣れた声が、背後から聞こえてくる。
「うおっ!?」
背後に立たれていた驚きで尻餅をつく幸希くんを、彼女はそっと立たせる。
「初めまして。大鳳朱雀です」
白いワンピースを着た彼女を見る限り、仕事というわけではなさそうだ。
「お疲れ様です。今日は休日ですか?」
「えぇ。お父様がバイトを、お母様が本業の方をサポートしてくれるって。優司くんがここに滞在する間は連休にしてもらったわ」
「そうでしたか。すみません、ありがとうございます」
「私がやりたくてやっているんだから、そんな気にしないで」
そんなやり取りを交わしていると、幸希くんがコソッと
「え、お前、この美人と知り合い? 舞衣さんいるのに大丈夫か?」
指摘を受け、ハッと舞衣さんの方を見る。目を逸らしている。しまった、誤解されたか。
「じゅ、従者の一人です、従者!」
慌てて訂正すると、舞衣さんは
「見ればわかるわよ。霊力量が桁違いだし」
イタズラが成功した子どものように笑った。
「神楽舞衣です。よろしくお願いします」
舞衣さんが手を差し出す。すると、大鳳さんは
「タメ口で良いですよ。私の方が年下です」
意外にも、その手を取った。警戒心の強い彼女にとっては珍しい。やはり近い年の女の子、というだけあり、打ち解けやすいのだろうか。
「そう? じゃあ、お互いタメ口でいこう」
「わかった。よろしく」
女子組で話が盛り上がり、ついには
「……ってことだから、ちょっと待っててね」
僕らを置いて、二人はどこかに消えて行った。
「……泳ぐ?」
「俺はパス。荷物見てるわ」
「僕も見学しておきます」
「えー……じゃあ、僕は行ってくるわ」
「おう」
気まずくなったのか、幸希くんは逃げるように悠斗くんたちと合流する。一方で、暁人くんは気怠げに日陰に入ると
「いやー。大変だなぁ」
三人を眺めながら、僕に話を振ってきた。
「何がです?」
「無自覚イケメンを好きになるとつらいよな、って話」
「唐突ですね。暁人くんは男性が好みですか。初耳でした」
「……俺じゃねぇよ。バーカ」
どうして暴言を吐かれたのかはわからないが、怒っているわけではなさそうだ。強いて言えば呆れに近いものを感じる。首を傾げれば、ため息をつかれた。
波の音が、非日常を運んでくる。
鳥の羽音、暖かい風、肌を焼く日差し、砂の感触。
無心でいると、微かに感じる自然。たまにはこういう場所も悪くない。友人と平穏な時間を過ごせているのなら、なおさらだ。
僕はそっと目を閉じると、仕事で疲れた体を休ませることにした。
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