第13話 夏休み旅行④
「そういえば、二人は何していたんだ?」
悠斗くんが二人に問う。僕も気になっていた。なんだろう、と考えていると、二人は互いに顔を見合わせて上着を脱ぎ、
「じゃーん! やっぱ海といったらコレ!」
「……恥ずかしいから、感想は要らないわ」
中に着ていた水着を見せる。白い肌に、布面積が少ない水着。可愛らしい大鳳さんと、美しい舞衣さん。なるほど、これではナンパされない方がおかしい。今でも、視線が二人に集まっているのがわかる。それは、友人たちのものも、例外ではない。
「服、着ましょうか」
にこにこと笑いながら、二人に上着を着せる。
「えー。せっかくの海なのにぃ?」
「えー、じゃありません。また狙われますよ」
「そしたらまた、守ってくれるんでしょ?」
確かに、何度でも人払いはする。が、この姿で歩かれると、戦闘前に精神が持っていかれる。
「……あまり見せたくないんですよ、他人に」
呟いた後に、ハッとする。さらっと、とんでもないことを言った気がする。これでは独占欲の強い男みたいではないか。二人の自由を奪う、なんてことは許されない。
「すみません、今のナシで」
すぐに訂正するものの、もう遅い。
「聞いた〜?」
「聞いたわ」
「流石、私の主。最高!」
「新たな一面を見ることができて満足ね」
咎められることはなかったが、何故かご満悦な二人に、思わず顔が赤くなる。恥ずかしい。
「うわー、僕たち完全に蚊帳の外じゃん」
「カヤノソト? なにそれ」
「いいなー、僕も恋したい」
「諦めろ。お前には無理だ」
友人たちも一歩引いてしまっている。助けてはくれない。
「と、とにかく! 上着は着てください。あと女性だけでの行動は控える。良いですね?」
こんなことで誤魔化しきれるとは思っていないが、なんとか話題を元に戻し、平常心を保つ。ニヤニヤと全員から笑われている。もう本当にやめて欲しい。
しばらく嫌な空気が続いたかと思えば
「朱雀ー、そろそろ時間でしょー?」
「
「優司くん! 久しぶりー」
救世主と言うべきか、大鳳さんのお母様・先代『朱雀』の朱音さんの声が海に響いた。
「ごめんなさいね、娘のワガママに付き合ってもらっちゃって」
「いえ。こちらこそすみません。お忙しい中、仕事を増やしてしまって」
「良いのよ、こっちが本業ですもの。大鳳家として、当然のことをしているまで」
「ありがとうございます。助かります」
彼女の登場により、少しだけ大鳳さんが不機嫌になる。
「これからが楽しいのに……」
「文句言わないの。優司くんに怪我させたら、困るでしょう?」
「はーい」
どうやら、大鳳家で下準備をしておいてくれるらしい。
「邪魔してごめんね。楽しんで!」
「またね、優司くん」
夏の日差しに溶けるように消えていく二人を、遠くから見送る。蝉の声が、早くも二人の足音を掻き消す。
悠斗くんの手にあるソフトクリームが溶けて落ちる。落ちた一雫が砂浜を汚す。僕らの夏は、想定外ばかりだ。儚い『平穏』だった。
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