第47話 無力だからこそ②【side:古白】

 「我々のことを理解できない一般人とは付き合う必要がない。時間の無駄だ。さっさと帰宅してもらいなさい。居座るなら弾き出せ」


相変わらず、やることがなかなかに強引な人だ。しかし、今回ばかりは助かった。結界外に弾き出された影響で、蓮の記憶が、どこまで飛んでいるのかは不明だが……まぁ、大丈夫だろう。


「なんとなく予想していたが、まさか、本当にあの子が選ばれるとはな」


じいちゃんは昔から「完璧な善人になる必要はない」と言っていた。その理由が、まさにコレらしい。多くの人間に好かれるような善人は、多くの神にも好かれる。仕事上、神に好かれるとやりにくいために、神守一門は一般的に冷酷であるように育てられる。それで何故、一般人と結婚ができて、一族が続いているのかは不明だが。


「まぁ、それは良い。今は彼を取り戻すことに専念するぞ」


ここまで来て、オレはようやく違和感を抱く。


「あれ? オレ、いつじいちゃんに優司のこと話したっけ?」

「お前の口からは聞いていないな」

「なんで知ってんの?」

「そりゃあ、私も元・白虎だ。神守家の危機は長年培つちかってきた感覚でわかる」


そういうものなのだろうか。引退しても神守家を心配するというのは、なんと忠実な従者か。そして従者をそこまで従えた真司さん、凄い人だったんだな。


「本当は、優司を守るために光司を次期頭首に育てたんだがな。我々、神守一門の力は及ばず、この始末。真司も遣る瀬無いやるせないだろうな」


じいちゃんはそう言いながら、着物を脱いで、稽古着に着替え直す。


「わかっていると思うが、お前たちは選ばれてしまった。何百年に一度の神々からの挑戦状。負けは許されないが、前例が少ないから攻略法すらないに等しい」


帯を締め、呼吸を整え、じいちゃんは仁王立ちでこちらを見据える。


「神守も人間であることを忘れるな。彼らを神にしてはならん。必ず取り戻せ。例え敵が神であろうと、どんな方法を使ってでも」


そして、手招きをして


「来い。そして使勝て」


じいちゃんの挑発を受けるようにして、オレは構える。久しぶりの本気の手合わせだ。思わず口角が上がる。

 実戦では先手必勝。オレは早速じいちゃんの背後を取り、そのまま蹴りを入れた。が、当然避けられる。大丈夫、想定内だ。一度引いて、もう一度攻撃を仕掛ける。今度は上から。蹴り落とす。そして、霊力を溜めて


「遅い」


殴りかかろうとして刹那、何か、銃弾のようなものが飛んでくる。それがじいちゃんの攻撃であったことは避けた後、着地した時にようやく気がついた。


「そんなのアリかぁ……?」


大鳳や霧玄とは違い、道具なしで弾を飛ばしている。元々ある銃弾や弓矢を強化するやり方は聞いたことがあるが、ゼロから弾を生む方法は聞いたことがない。


「練習していけば身につく。悪いが法則はよくわからん。やり方は教えられん。見て、学び、身につけろ」

「めちゃくちゃだってぇ!!」


泣き言を口にしたところで、じいちゃんが一時止まってくれるはずもなく、そのまま手合わせは続いていく。

 オレは時々悲鳴を上げながら、必死で祖父の攻撃を避けては盗み、実践と失敗・修正を繰り返した。

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