第50話 決戦【side:秀治】

 まさか実家が戦場になるとは思わなかった。


 集会後、すぐに決戦の時は来た。予想よりも早い神々の試練に驚く暇もなく、僕らは神楽家を目指した。途中、あからさまに一般人の男性が合流し、それに構っている余裕もなく走る。


 家に着くと既に戦闘が繰り広げられていた。


 「……おや、息子さんも来ましたね」


酷く冷たい声で、優司くんは言う。僕を「秀治くん」と呼ばなかったということは、つまり、そういうことだろう。


「へぇ? 一応、男もいたんだね。なるほど、慰霊の力がないんだ。神楽のくせに」


優司くんの隣でニヤニヤと笑い、挑発してくる狐の神。僕は激昂する心を必死に抑えながら、拳をきつく握った。


「どうする? 別に敵じゃないからどっちでもいいけど」


狐の神の問いに、優司くんは答える。


「家族一緒に死ねる方が幸せでしょう」


その一言に、胸が締め付けられた。彼の本心であると思ってしまった。言葉の重みが伝わる。彼は、一人取り残された身なのだから。まるで思いやりのようにも聞こえるそれに、何か言葉を返すことはできなかった。


「じゃあ、先に殺しちゃおうかな」


狐の神が一歩前に出ると同時に、波青さんも僕を庇うようにして前に出る。


「……本当、邪魔しかしないよな。お前ら」


明らかに嫌そうな顔をする狐の神。優司くんに向けていた柔らかい表情とは対照的な態度で、神は波青さんを見下ろしていた。


「返していただきますよ、我が主を」


波青さんは言い終わる前に攻撃を仕掛けた。刃が神に届きそうなところまでいくが、届くことはなかった。しかし気にすることなく、何度も攻撃を仕掛けていく。僕も刀を抜いて構えるが、二人の間に入り、波青さんに加勢する……ということはできなかった。早い。入る隙間がない。

 そんなことをしている間にも、今度は


「やれやれ、品がないお嬢様だ。神楽家の教育はどうやっているんだい?」

「……ッ!」

「余裕がないね。その程度で、神楽家次期頭首候補? 笑わせる。我が主とは不釣り合いだ」


悠麒さんが姉ちゃんと戦っていた。どうやら、急所は外してくれているようだが、戦闘不能に持っていきたいのか、姉ちゃんの手足ばかりが狙われている。少しずつ傷がついていく手足に目をつぶりたくなったが、我慢だ。

 その間に大鳳さんと古白さんが動いていた。


「足止めを頼まれているの。悪いわね、神楽」

「ま、遊んでくれや」


父さんと戦うのはこの二人らしい。


「悪いが遊んでいる暇はない。若い二人を……というのは心苦しいが、仕方がないな。片付けさせてもらうよ」


 それぞれ戦闘が始まる。動けなくなっている僕と、優司くんの友人(確か、幸希さん)の手を引いて、霧玄さんがやってきたのは


「僕の相手は、あなたたち三人ですか」


優司くんのところだった。


「無能な神楽の息子と、霊力の少ない一般人という足枷付きとは……これは随分と舐められたものですね」


優司くんはこんなこと言わない。そんな想いが強く芽生えた。だが、内容は事実だった。僕は悔しくて奥歯を噛む。幸希さんも、顔をしかめていた。


「足枷に見えているうちは、お前に勝機なんて来ねぇよ」


冷静ではあるが、若干の怒りを含んでいるのがわかる。霧玄さんは、僕らに「絶対に俺よりも前に出るな」とだけ指示を出すと、そのまま、優司くんを見つめていた。一方で、優司くんも動かない。互いに、ニコニコと不気味な笑顔を浮かべたまま、しかし緊張感は走る中、僕らは「動いた方が負ける」ということをなんとなく理解した。根拠はないが、僕らが動かせる部分は口だけだと、なんとなく思った。


「さぁ、面談といこうか。優司」

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