第51話 大人の事情①【side:古白】
大鳳との共闘は気乗りしないが、相性が良いことは理解している。オレに合わせて攻撃してくれることをいいことに、オレは暴れるように神楽を攻撃した。
「自分がしていること、わかっているかい?」
やはり現役の神楽は強い。あの真司さんと肩を並べただけはある。生身の人間に無効な慰霊の力を抜きにして、オレたち二人と対等に戦えるほどの強さ。厄介だな、と思うと同時に、悠麒が「二人で担当しろ」と言った意味がわかる。
「人類を滅亡させる気かい? それは彼に人を殺させると同じことを意味する。殺してあげた方が幸せだ」
「随分と偉くなったものね。神になったつもりかしら? 一人の命を大切にできない人は何も大切にできていないのよ? 無数の『一』から世界はできている。そんなこともわからないのかしら」
「二兎追う者は一兎も得ず。取捨選択ができない者は何も守れない。現実を見なさい。そういう独り善がりの正義感が、多くを殺すんだ」
大鳳もまだ余裕があるが、神楽の方が優勢だ。少しずつ、大鳳に擦り傷がついていく。
「大人になりなさい」
途端、神楽は式神を大鳳に集中させる。オレが気づいた時には既に遅く、大鳳は大量の式神に飲まれた。
「……これが大人のやることかよ」
なるべく冷静に言えば、神楽もまた、冷静に
「安心しなさい。子どもを殺す趣味はないよ」
にっこりと口角を上げて返した。
「本当に嫌な生き物だぜ、大人って」
心の奥底から出た言葉だった。今でこそ、大人に分類される年になってしまったが、オレは今でも大人は嫌いだ。敢えて安全で楽な方だけを選び、何事にも挑戦する子どもを見下す。
「お前は、優司を救いたいとは思わないのか」
オレが問えば、神楽は考えることもなく
「思っているからこそ、こうして戦おうとしている。痛みなく、安らかに死ねるよう、殺してやろうと言っているんだ」
似たような言葉を再び繰り返した。攻撃の手を緩めることのない神楽。オレはそれを避けつつ
「それしか言えねぇのかよ、クソがッ……!」
怒りのままに蹴りを入れる。当たりはしたが、吹き飛ぶばかりでダメージが入らない。神楽の戦闘スタイルは霧玄と悠麒を足して二で割ったような感じだ。実に相性が悪い。
「可哀想に。武瑠は何一つ教えてくれなかったのか」
大鳳を飲み込んだ倍の数の式神がオレに向けて放たれる。バケモノかよ。間一髪で避けながらオレは神楽に殴りかかった。
「可哀想なのはお前だろ。結局はデメリットの具合でしか選べない臆病者だ。それを大人だというなら、オレは一生子どものままでいいぜ」
ぐっと押し込んでみるが、見た目によらず力があるようだ。ダメージは入らない。
「玄武の方が大人じゃねぇか? 何事も諦めず挑戦する子どもを見守り、時に協力する。もしダメだったとしても、その始末をしてくれる。口だけじゃなくて行動で示す奴だ。オレはああなりたいね」
相手の力が少し弱まったところで、もう一度、思い切り押し込んでみる。すると、ようやく、バランスを崩してくれた。
「大鳳!」
「わかってる!」
オレが声をかけると大鳳は式神の中から一本の矢を放った。標的の位置はオレの声でわかったはず。一秒にも満たない時間を、なるべく有効に使う。神楽をその場に留まらせ、避ける。が、神楽も歴戦の者。上手く急所を外させ、腹部に傷をつけた。大鳳は、霊力を失った式神を払い除けながらこちらに歩いて来る。
(
オレはそんなことを思いながら、大鳳の行動を見守っていた。
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