第28話 守るための刃【side:波青】

 神楽の坊に剣を教えて、早一週間。


「遅いッ! 一つ一つを丁寧に終わらせようとするな! 時間がもったいない!!」

「はいっ!」

「周りを見ろ! 今、死角に入れたぞ!!」

「は、はいっ!」


少しずつ良くなってきているが、まだ、実戦で使えるレベルではない。吸収は速いが、身体の方が追いついて来ないようだ。


 今日の稽古を終え、記録をつける。


(基礎体力がない……というわけではないとは思いますが、やはりスピードが足りませんね。昔、私はどのように鍛えていたのでしょうか。そもそも、私と同じタイプの練習方法で良いのでしょうか)


 ふと脳裏をよぎったのは、霧玄殿と悠麒殿と、三人で手合わせをした時のことだった。


『流石です。一撃も入りませんね……』

『まぁ、このメンバーならそうなるよね』

『このメンバーなら? どういうことです?』

『お前は攻撃型、俺は防御型、悠麒は支援型。バランスが取れている分、味方としては申し分ない強さを誇るが、敵同士だと厄介なメンバーだな。誰かが誰かの対策を持っている』

『お二人は攻撃にも長けていますが、私と何が違うのです?』

『うーん……思考回路? ほら、僕らは目的が違うからさ。動き方も変わるんだよ』

『そうだな。例えば……お前らは動かない敵に対して、まず、どう行動する?』

『先手必勝、私から動きます』

『ちなみに僕は様子を見るよ。相手を刺激して動かせる。特徴を見極め、対策を立て、倒す』

『俺は放置だ。向こうから来るまで動かない。耐久戦に持ち込む』

『攻撃にも種類があるんですね』

『そう。倒すこと、守ること、情報収集。目的によって、戦い方は違うんだ』


 私の剣は倒す剣。主を守るために、敵を倒すための剣。では、彼はどうだ。本当に私と同じ剣か? 敵を倒したいと思っているのか?


「……坊、あなたは大切なものを守るために、敵をどうしたいと思っていますか?」


今更ながら聞いてみる。


「僕は……たとえ敵だとしても、傷つけたくはないです。話し合いをするためにも、敵の攻撃に耐えられる力が欲しいです」


なるほど。では、根本的に私とは目的が違ったわけか。それは上達しにくい。


「わかりました。次回以降は、防御に徹底した剣術を教えます。体力づくりを怠らないように。今よりも厳しくなると思ってください」

「レベルを上げる、ということですね」

「……えぇ、そうなりますね」

「わかりました、ありがとうございました!」

「はい、お疲れ様です」


 坊が帰った後、すぐに霧玄殿に連絡する。


『お疲れ様です。突然で申し訳ありません。近いうちに稽古をつけていただきたいです』


すると、


『構わないが、明後日だけは避けてくれ。それ以外ならいつでも良い』


間髪入れずに返信が来た。


『ありがとうございます。助かります』


昔、模擬戦対策用に作ったノートを開く。霧玄殿たちの動きを細かく観察したものが書かれているのだが、ここで、ようやく悠麒殿の思惑に気がついた。


「……クソッ、見事にまった」


彼のニヤニヤと笑う顔が思い浮かぶ。常に一枚上手の彼。今回もてのひらの上だったようだ。

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