第2話 その恋は罪か③

 ……とは言われたものの。


 正直、何と言えば良いのかわからない。昨日の今日で断った相手に話しかけるなんて……。そもそもクラスが違う。違うクラスの女子相手に話しかけに行くのは難易度が高い。

 そう考えると、舞衣さんは本当に強い人だ。そして、僕は本当に申し訳ないことをした。

 舞衣さんのクラス・三年四組の扉の前で呆然と立ち尽くす。どうしたものか、と考えていると


「あれ? 優司じゃん、どうした?」


友人の暁人くんが声をかけてきた。そうだ。彼もまた、三年四組だった。


「……少々、舞衣さんにお話がありまして」

「あぁ、神楽ね。わかった、ちょっと待て」


どうやら、いろいろ察してくれたようだ。教室の中に入り、舞衣さんを呼んでくれる。頼りになる友人がいて良かった。


「優司くん、話って?」


予想していた扉と反対の扉から現れた舞衣さんに驚きながらも、意を決して話す。


「昨日の件なのですが」

「……場所、変えようか」


怒っているのだろうか。今更、話なんて。顔は笑っているが、嬉しそうではないことだけは、確かな事実だった。

 立ち入り禁止の屋上に連れられ、フェンスに手をかける。隣に立つ舞衣さんの顔は、とても見ることができなかった。


「……それで、話って?」

「昨日の発言を、一部、撤回させてください」


舞衣さんの目が見開かれる。


「確かに、僕はあなたに見合いません。僕には何もありません。だからお断りしました」

「撤回してないじゃない……」


少し悲しそうな顔をしている。こんなにも深く傷つけてしまったのか。


「……でも、それでも許されるのなら。僕は、あなたとお付き合いしたいと思っています」


反応がない。やはり駄目だったのだろうか。

 それなら、それで良いのかもしれない。彼女に与えてしまった痛みを、僕も味わおう。これは僕の罪だ。勝手な理由で断って、勝手な理由でやり直そうとしている。馬鹿馬鹿しい。何かを望んではいけないというのに、僕は、望んでしまった。似合いの罰だ。

 想いを伝えられただけでも上等だ。これで、悠麒さんとの約束も果たした。


「今更でしたね。忘れてください」


これで終わりだ。そう思っていた。


「待って」


帰ろうとする僕の腕を掴む彼女。振り返れば、その目に射抜かれた。知っている。家族がよく見せていた、


「その告白、受け入れさせて欲しい」


覚悟を宿した目だ。


「諦めきれなかったの。お父さんに反対されても、優司くんに断られても。諦めきれなくて、もう一度、伝えるつもりだった」


「優司くんから言ってくれて嬉しい」と笑う、彼女はとても美しく思えた。心の中で、何かが落ちる音がする。久しぶりに、心が揺らいだ。

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