第2話 その恋は罪か④

 ふと、冷静になって思ったことがある。


「お父様に反対されたんですか……?」


それは、今後、この関係が知られたらまずいのではないか。許可を得てはいなかったのか。


「まぁ、ね。神楽家と神守家には因縁がある。そもそも、根本的に考え方が違うから。未だに優司くんのことを、『冷酷非道の神守家頭首』だと思っているんだと思う」


そんなことないのにね、と力無く笑う彼女は、どこか切ない顔をしていた。


「でも、きっとわかってくれるよ。優司くんがそんな人じゃないことも、この想いも、全部」


そうか。彼女には『信じる力』がある。だから希望を持って、強く生きていけるのだろう。

 舞衣さんは不思議な力を持っている。今まで抱えていた不安が、この人といると消し飛ぶ。

 ずっと心配だった。僕と一緒にいることで、彼女にも地獄を見せることになるのではないかと。僕は多くの神と関わりを持つ。冥界に仕事に行くことも、珍しいことではない。トラウマを盾にしてくる神もいる。その時、地獄よりも地獄らしい現実が叩きつけられる。それに耐えられない者は、冥界から帰って来れなくなる。万が一を考えれば、不安は膨らんでいった。

 しかし、彼女が強いことを改めて確認した。彼女と一緒なら、ある程度の地獄は耐えられるかもしれない。


 __本当に?


 「逃げるな」と、誰かが囁く。一人で抱えていくべき罪を、人に背負わせるなと。


 耳鳴りに目をつぶっていると、舞衣さんは、それに気づいてしまったのだろう、心配そうな顔をして僕を見た。ふと、反射的に、微笑みを返す。だがそれは、彼女を誤魔化すには、あまりにも浅はかな行為だった。


「私を見て」


両手で顔を掴まれると、強制的に視線を合わせられる。神楽家特有の美しい黄色の瞳が、僕を捕らえて離さない。


「神楽家次期頭首・神楽舞衣。あなたが思っているほど、私は弱くない。あなたに惚れたその時から、全てに逆らう覚悟はできている」


ノイズが次第に薄れていく。従者以外で、このノイズを小さくしてくれたのは、彼女が初めてだった。


「……ありがとうございます。では、僕も覚悟を決めます」


彼女の手を下ろし、今度は自分の意思で彼女の目を見て言う。

 きっと、この恋は罪だ本来、。欲を持ってはいけない僕が「彼女と共にありたい」と願ってしまった。必ずいつか罰を受ける。それでも、


「あなたを守り抜きます。絶対に、最後まで」


舞衣さん、やはりあなたは地獄が似合わない。こちら側の世界に来てはいけない。守り抜いてみせる。あなたの世界と、こちらの世界を切り離して、この恋を成立させる。万が一、二人に何かあった時は、ベタな表現だけど、死んでも守ってみせる。


 「頼もしいわね。ありがとう」


舞衣さんは、美しい長髪を風になびかせながら、柔らかな微笑みを浮かべていた。

 つられて僕も笑顔になったのは、たぶん気のせいではなかったはずだ。

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