第58話 解呪②【side:悠麒】

 主にかけられた燐火の呪いが解けた。案外、あっさりと解呪できたのは、本人が死んだ影響が大きいだろう。あの青龍が死んだのは想定外だったが、こうなった以上は仕方ない。

 とにかく、「人間を忘れる呪い」が解けて、一先ず安心だ。本人にも、人の心は戻るはず。

 問題は、その負荷に耐えられるか。


「優司」

「ダメです、待ってください、近寄らないで」

「優司……」

「ち、違っ……嫌なわけじゃなくて……僕は、こんなはずじゃ……」


優しい子だからこそ、自分がやったことを許せないのだろう。例え、それが無意識に操られていたものだとしても。


「主、まずは『号令』を解かないと」


冷静に助言を与えるが、震えていて上手く口が回っていない。声にならない言葉を何度も吐き出すばかりだ。仕方ない、最終手段だ。


「川田幸希くん、だったかな。協力してくれるかい?」


彼は静かに頷くと弓を握り締めて立ち上がる。


「あぁ、戦うんじゃなくてさ」


僕は彼に触れると、彼の中に眠るを捕まえ引き摺り出す。


「ちょっと主を救ってきてよ」


にっこりと笑えば、彼は呆然と立ち尽くす。まぁ無理もない。自分の中から、見知らぬ『札』が出てきたのだから。


「えっ、えっ、どういうことですか?」

「これ? これはねぇ、君の守護神」

「は?」

「君を攫った神は神守家と縁がある神だった。だから、何度も何度も攫わずとも君を見守れるように、主が神を君の中に入れたんだよ。君に霊力があったのは、君の中の神が協力していたから。この札は、神そのもの。お守りみたいなものだと思ってくれて良い」

「待ってください、話が入ってこない」

「細かいことは気にするな。ただ今は協力してもらう。この神の力を使って、主の心の中へと入ってもらうよ」

「へ?」

「まぁ、なんとかなるさ。詳しくは玄武にでも聞いてくれ」


流石に簡単な説明すぎたのか、彼は口を半開きにしたまま固まっていた。

 しかし、それに構っている暇はない。


「玄武、交代だ」


玄武の元に行くと、そのまま、神の相手を引き受ける。


「主の心を頼んだよ」


玄武は一瞬だけ目を見開くが、すぐに「あぁ」と言って主の元へと駆け寄った。

 玄武に任せておけば、もう、あちらは大丈夫だろう。悔しいが、主にとっての父親は玄武であり、主にとっての大切な友人は幸希とやらである。僕の立ち位置は従者だ。それが変わったことはない。


 後は、僕らが時間を稼ぐのみ。朱雀・白虎と連携を取りながら、少しでも長く。


 希望は、彼らに託された。

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