第78話 希望と絶望の創造神
「そういえば、お前はなんで閻魔大王の言う『奴』を知っているんだ。真司さんなら知っているのは納得できるが、お前はそんな凄い人を紹介されるほど大層な人間じゃないだろ」
辛辣な言葉が古白さんの口から放たれる。そういえば兄と同い年か、古白さん。仲も良かった記憶がある。が、あまりにも唐突で辛辣すぎて思わず僕らはみんなして吹き出してしまった。
「酷くない? 一応、俺が次期神守家頭首候補だったんだけど」
「いや事実だろ。お前、才能はあっても磨こうとはしなかったじゃねぇか。てっきり、こっちでも怠けて信頼失っているのかと」
「酷くない? え、俺のこと嫌い?」
「いや、全然。好きだが?」
「好きな奴に対する言葉じゃなくない?」
「まぁ良いけど」と続ける兄。兄は、少しだけ言いにくそうに次の言葉を紡ぐ。
「そりゃあ俺だって、怠けたかったさ。できることならね。でも父さんがさぁ……彼と会った瞬間、殺し合いの大喧嘩しちゃって……」
「何があったんだよ」
「行けばわかるよ」
焦らすなぁと思いながらも無言を貫いていると
「あ、舞衣ちゃん。舞衣ちゃんも気をつけて。喧嘩しないようにね。止めるの大変だから」
兄は不穏なことを口にした。不安を煽る。
阿鼻叫喚の中を、僕らは進んでいく。深く、深く、また深く。地獄の底まで行くかのように長い道のりを下っていく。
どれくらい歩いたのか。足がそろそろ震えてきた頃、ようやく、兄は足を止めた。
「さぁ、ご対面といこうか」
大きな扉を、兄は難なく開ける。すると奥の方からバタバタと何かが近づいてくる音がした。思わず身構えれば、
「優司〜!! 愛しの我が息子よ〜!! 父に会いに来てくれたか! 父は嬉しいぞ〜!!」
兄よりもハイテンションな男の神様が突然抱きついてきた。白銀の長髪がその勢いでふわりと舞っている。人間とそう変わらない見た目の彼からは、確かに、強く、しかし心地良い霊力を感じた。
「……はぁ。紹介しよう。彼が例の」
「優司の父、
「絶望の創造神、黄泉な」
彼が『黄泉』という名であることを知るとほぼ同時に
「こらーっ! 優司から離れろ、黄泉ィ!!」
今度は女の神がバタバタと走り込み、僕に抱きついていた黄泉を引き剥がす。そして
「お前はいつもいつも人様に迷惑を……」
そのまま説教タイムが始まった。
「彼女が
黄泉とは対照的な漆黒の長髪が白い肌に映えている。この二柱が、僕ら『絶望』と『希望』の生みの親か。もっと、二人とも怖い感じかと。想像と違ったな。
「蓬莱様、そろそろ」
兄の声かけにより説教は中断され、改めて彼女から紹介を受ける。
「……すまない。私が蓬莱、希望の創造神だ。或いは、天界の管理人。神守が生まれる前は、お前たち五神の統率を取っていた者でもある。詳しくは中で話そう。外は危険だ」
蓬莱はそう言うと、屋敷の中へと案内する。
広い屋敷は平安時代のような作りで、どこか安心するような、懐かしさを感じた。
二柱の創造神を前に、体が強張る。しかし、緊張を和らげるように、舞衣さんと悠麒さんが両サイドから身を寄せてくれる。
僕は深呼吸を一つすると、早速、本題に入ることにした。
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