第9話 力の使い方②
「それは、目を逸らせ、ってこと?」
思ってもいなかった彼女の一言に、逃げる足が止まる。
「仕方のないことだから、目を逸らして。もし見たくないものなら、見ないようにして。そういうこと?」
そういうことになるのだろうか。返す言葉が、見つからない。
「……ちゃんと向き合うわよ。それくらい」
思わず、「え?」という声が漏れる。そのまま、叱責を受けた後にフラれるかと思った。一応、最低なことを言った自覚はあったから。
「ちょっとビックリしただけ。私だって家が家だから、ある程度は理解しているわ。私が確認したかったのは、優司くんの意志。力をつけたみたいだから、その使い道をどうするのかを、知りたかったの。まさか、あの人たちみたいに殺戮に走るかなって思ったけど……私の杞憂で終わって良かったわ」
試されていた驚きと、真相を知ることができた安心と、勘違いしていた恥ずかしさ等、様々な感情が頭の中を駆け巡る。ついには感情を処理できず、そのまま硬直してしまっていた。
「すぐに別れ話するの、やめよう?」
「はい……」
にこにこと笑いながら威圧する舞衣さん。こういうところは、お父様似、なんだよなぁ。有無を言わせない、というか何というか……。
「否定的だと、私が嫌われていて、無理させているのかな、って思っちゃう」
「そんなことはありません……!」
「じゃあ、やめて」
「……はい」
これに関しては僕が一方的に悪いか、流石に。霧玄さんに「お前の遠慮は度が過ぎる。自分が思っている以上に人を傷つけているからな」とよく注意されていたが、こういうことか。気をつけよう。
「たまには、そっちから誘っ……」
全てを言い終える前に、次から次へと問題は起こる。「空気を読め」という方がおかしい。この世界に、安息は存在しない。
「こっちへ!!」
咄嗟に彼女の腕を引き寄せ、背後に隠す。
「ゆう……」
「呼ばないでください。敵の領域内です。名前を取られたら厄介です」
「助けは……」
「呼べないでしょう。完全に封鎖されました。例の件の残党……狙いは僕です」
争いを好まない彼女の手前、早速、約束を破り敵を倒すことは避けたい。が、見るからに強い相手だ。そもそも、形がはっきりしていない。理性がないタイプだ。対話はできない。
(悠麒さんも呼べない、対話はできない、か。どうしよう……)
攻撃を避けつつ、思考を巡らせる。僕が教えてもらった戦い方は、相手を殺してしまう。だがここで負ければ被害が拡大する。僕が負けたという噂は、従者たちを危険に晒す。それだけは、絶対に避けたい。今までの苦労が水の泡だ。
「……ごめん、目を瞑っていて」
殺さなければ殺される。僕が負ければ、彼女に刃が向くかもしれない。失望の方が、全滅よりマシだ。
戦闘体勢を取る。
頭には、「生き残ること」しかなかった。
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