第9話 力の使い方①

 三人の報告を受け、危険度の高い邪神たちは対処できたことを知る。舞衣さんの協力により神々もだいたい元に戻した。後は、僕の練習の成果が広まることを待つだけだ。



 一安心。そう思っていた。しかし、達成感に満たされて学校に行くと突然、舞衣さんに抱きつかれた。


「……ま、舞衣さん?」


他の生徒たちからの注目が集まる。恥ずかしさもあったが、それ以上に不安があった。きつく抱きつく彼女の腕からは、何か、恐怖のようなものが伝わってきたからだ。


「何か、ありましたか?」


落ち着いて聞いてみるが、返事はない。考えた末、とりあえず頭を撫でてみる。霧玄さんにはよく、こうしてもらっていた。僕が落ち着けた方法はコレだった。すると、やはり効果は高いようで、彼女の口から不安の種を聞き出せた。


「……優司くんも、いつか殺しをするの?」


不穏な単語が出てきた。非常にまずい。先生は事情を知っているとはいえ、生徒に聞かれたらまずい。通報されてもおかしくない。


「場所を変えましょう。屋上を借りてきます」



 理由を聞けば、波青さんと悠麒さんの戦い方に恐怖を抱いたと言う。僕自身は見慣れていたが、確かに、他の人からすれば『殺す』という行為は見慣れないものだったと思う。それに、神は強い。手加減なしの殺しは、残酷なもの。どんな風景を見たのかは、想像できる。


「霧玄さんから聞いたわ。殺しは普通で、そうしないことは甘えだって」

「……否定はできませんね」

「いつか、優司くんもになるの?」


すぐに答えることはできなかった。何故なら、


「おそらく、そうでしょうね」


図星だったから。


「しかし、無駄な争いはしないつもりですよ。負の連鎖というものは、どこかで、誰かが断ち切らなければなりません。その役目を担うだけです。話し合いで解決できるなら、そうします」


僕自身、もう二度と悲劇は繰り返したくない。一度、身内を殺している。だからこそ、殺戮の苦しみや悲しみは、痛いほどわかる。あってはならないものだ。どんな理由があっても。けど


「どうしようもない時の始末を引き受けるだけです。神守家の者は、そのために生まれてくるのですから」


武器の使用や特別待遇を認められているのは、それなりの理由がある。力を得る代わりに自由を失う、というのは仕方のないことだ。できる人がやるしかない。誰もがやりたがらない汚れ仕事でも。


「僕の力は、守るための力です。ただ単に『邪魔だから』という理由で殺しはしませんよ。危害があるか、ないか。それが判断基準です」


例えとして熊を出してみたら、少しは納得してくれた様子だった。ただ、やはり腑に落ちない部分もあるようで、「案の定、無理だった」と思う気持ちが芽生えてくる。


「無理はしなくて良いですよ。理解しがたいのであれば、関わるのは控えましょう。交際の話もなかったことにします。大丈夫です。元の生活に戻るだけですから」


ほとんど諦めていた。裏切られる前に離れたい気持ちが強かった。逃げたい一心で、言葉だけを残してその場を去ろうとする。


 あまり長居すると、自分の役目を放棄して、彼女に絆されてしまう気がしたから。

 それは絶対に許されない。従者のためにも。そして、死んだ家族のためにも。

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