第74話 これから②

 「それは?」


幸希くんの問いに、悠麒さんは答える。


「君を守るための秘密道具みたいなものさ」


あまりにもざっくりした説明に、幸希くんは首を傾げる。それに対し、僕は補足して


「神守家に代々伝わるお守りの一つです。効果は三つ。危険が迫った際に自動で一度だけ結界を展開する。霊力を底上げする。気配を消す。強い霊力の持ち主に霊力補給さえしてもらえば、半永久的に使用できます。僕も、よくお世話になりました」


そう話すと、幸希くんは目を輝かせ


「つまり、僕も戦えるってワケ?!」

「そういうこと」


悠麒さんから数珠を受け取った。まぁ、アレがあれば心配はなさそうだ。あの頃の僕を守ってくれた代物だ。その強度は保証されている。


「ただし、ポジションはあくまでサポートだ。前線には出さない」


霧玄さんが言うと、幸希くんは少しだけ苦い顔を見せたが、「構いません」と答えた。やけに素直なのはどうしてだろうか。こちらとしてはありがたいのだけれど。


「それでは、そろそろ解放しましょうか。力を貸してください、

「ハタタガミ……?」


ビシャンッ! という激しい雷の音と共に姿を現したのは、いつかの神隠しをした雷を司る神。あれから今まで彼の中に宿していたが、力が衰えることはない。相変わらずの筋肉と強い霊力が、この場に緊張感を漂わせる。


「久しいな、神守の子よ」

「えぇ、お久しぶりです」

「ようやく出番か。だから言ったのだ。『この小童は将来お主の力になる』と。決断が遅い。待ちくたびれたわ」

「申し訳ございません」

「……まぁ良い。力を貸してやろう」

「ありがとうございます。お願いします」


バチンッと大きな音を立て、スッと消えていく彼に、みんなは口を開けながら長いこと虚空を見つめていた。


「あれが君の守護神ね」

「いやいやいやいやいや! えぇーっ!?」


幸希くんは「信じられない」といった様子で腰を抜かしていた。「あの神が自分の中にいた」なんて急に言われても、信じられないだろう。無理もない。正直、僕だって当時はビビった。


 「それから、秀治」


続けて、悠麒さんは札をひらひらさせながら、秀治くんに近寄る。


「君、神守一門に入る気はあるかい?」


少し、戸惑いを見せる秀治くんだったが、まもなく顔を上げ、しっかり、はっきりと答える。


「あります」


おそらく彼の頭を過ったのは、波青さんのことだろう。


「彼の剣は素晴らしいものです。途絶えさせてはもったいない。僕が引き継ぎます。引き継がせてください」


それに、と彼は続けて頭を下げる。


「実家である神楽を離れて神守にお世話になるなんて両家に申し訳ない気持ちもありますが、でも、今後の両家の友好関係を築くためにも、僕はどちらも経験してみたい。これは僕にしかできないことだと思うから」


深々と下げられた頭に、僕と礼治さんは互いに顔を見合わせた。言いたいことは同じだろう。


「神楽礼治、許可しよう」

「神守優司、許可します」


秀治くんの顔がパァッと明るくなる。


「そういうことだから、頼むよ、青龍」


悠麒さんが言うと、秀治くんの背後から、勢い良く膨大な霊力が溢れ出す。


『承った』


一体どれだけの人に聞こえていたのかはわからないが、青龍は静かな声で承諾してくれた。


「後で挨拶に行きましょうか」

「そうだね」


悠麒さんの顔は穏やかだった。安心したような様子。今までは、他人を信用しなかったのに。僕の知らないところで成長しているみんなに、少し寂しさを感じる。


「人のことばかりじゃないよ、優司くん。君と舞衣のことも決めておきたい」


礼治さんの言葉にハッと顔を上げる。あんな、大変なことをやった後だ。何を言われるのか。


 僕は覚悟を決め、「はい」と言葉を紡いだ。

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