第74話 これから③

 「結婚式、いつにする?」


想定外の言葉に思わず「へ?」というなんとも気の抜けた声が出た。


「へ、じゃないのよ。へ、じゃ。もう面倒だし『友好の証』的なノリで結婚しちゃいなって。十八でしょ? いけるいける」


あまりにも適当すぎないか、この人。


「まだ我々は学生ですから、そういう話は高校卒業後に……」

「私は構わないけど」

「えっ」


この一家、どうなっているんだ。何故こんなに結婚を急ぐんだ。


「待て。流石に急すぎる」


良かった、霧玄さんはこちら側の人間だ。


「準備に時間が欲しい。今すぐだと中途半端になる。入念に手配しよう。最高の結婚式にしてやりたい」


違った。結婚前提で話が進んでいた。


「ちょっと待ってください、心の準備が……。いや、そもそも僕なんて……」


再びマイナス思考がぐるぐると頭を巡る。が、すぐにこの考えはみんなに失礼だと思い直し、口を噤む。


「……やはり、少し時間をください。まだ僕は『愛している』と伝えられていません。いつか必ず覚悟を決めて、僕から結婚のお話をさせていただきます。それまで、どうか」


言い終える前に抱きつかれ、言葉は奪われた。


「ずっと、待っているわ」


あまり格好はつかないけど。それでも、これが幸せなのだと、僕はこの時心からそう思った。


「先代に良い知らせを持っていけそうだねぇ」

「来年あたりに、一旦、冥界へ挨拶に行くか」


霧玄さんの一言に、ピシャリと悠麒さんが動きを止める。


「……来年はやめておかない? いや、来年にするなら来年でも良いけど、夏以降にしよう。そうしよう。ね?」


珍しく汗をダラダラと流す彼にきょとんとする一同。しかし、その理由は次第に見えてきた。


「父、さん……?」


悠麒さんをニコニコと(若干不気味ではある)見つめる父の姿が微かに目に映る。その横には今までに見たことのない形相をした兄の姿が。あからさまに呪詛をはいている。


「お。ようやく見えたか?」

「えっ、見えた!?」

「あらあら! 見えましたか!」


声も聞こえてくる。幻聴? ……いや、彼らの姿も声もあの悪夢とは違う、僕の正しい記憶の中の家族と同じ。つまり、


「やった〜! おめでとう、トラウマ克服ッ」


この陽気な兄は僕の本物の兄であり、守護霊として憑いているということになる。


「え、何、どういうこと?」

「真司さん! でも、どうして……」


悠麒さんも霧玄さんも驚いた様子だった。


 当然だろう。彼らは、冥界へと送られたはず。帰ってくることができるのはお盆くらい。神守一門は死んでも冥界で仕事がある。転生の時が来るまで死神や獄卒などの仕事を手伝うのだ。だから守護霊として現世に留まることはない。神の使いとして、そういう決まりである。


 何が起きているんだ、一体。


 その答えは当の本人たちの口から聞くことができた。

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