第11話 初デート

 舞衣さんの誘いで、デートというものをすることになった。先日のこともあり、あまり乗り気ではなかったが、誘いを断ることもできずにこの日を迎えてしまった。

 友人たちに相談しても「覚悟を決めろ」だの「頑張れ〜」だの、アドバイスをくれることはなかった。唯一、暁人くんだけが「着物だけは着ていくな。あと、自分を卑下するの禁止な」と警告に似たアドバイス(?)をくれた。


 優美さんから頂いた服を着て、待ち合わせの場所に向かう。優美さんが選んだものだから、間違いはないはず。あとは、自分を卑下しない。何度も胸の中で唱え、彼女の到着を待つ。


「ごめん、待った?」


オシャレをした舞衣さんが、走りながら言う。


「いえ、大丈夫ですよ」


僕が答えると、彼女はしばらく僕を見つめて、何も言わずに写真を撮った。


「え?」


思わず声が漏れる。困惑していると、舞衣さんは、きゃっきゃっ、と笑いながら


「ごめんごめん。あまりにもカッコよくて」


と今度は隣に来て、もう一枚、写真を撮った。写真を撮る習慣がないため、僕だけぎこちない感じがしたが、恋人らしいことができているという喜びが恥ずかしさに勝った。


「それじゃあ、行こうか」


彼女に手を引かれ、どこかに連れて行かれる。どこに行くのかわからなかったが、あたたかい手に導かれるのは、どこか嬉しく思えた。


 まず連れて行かれたのは映画館だった。女の子が好きそうな恋愛もの。事故で記憶を失った彼氏と、それを支える彼女の純愛ストーリー。彼氏が何も思い出せないまま、もう一度、同じように彼女に惚れて告白するシーンでは、多くの人のすすり泣く声が聞こえてきた。舞衣さんもまた、その一人だった。

 映画の感想を話しながら、昼食のために料亭に向かう。彼女のオススメだという料理の味は相変わらずわからなかったが、メニュー表に「自慢」と書かれていた煮物は、確かに美味しかった。

 次に連れて行かれたのは、買い物。化粧品や服などを見て回る舞衣さんの荷物を持ちつつ、求められた感想を素直に述べた。たったのそれだけだったが、楽しそうにしている舞衣さんの姿を見ることができ、「悪くないな」と思う。


 __こんな幸せが、続けば良いのに。


 ふと、そんなことを考えていると、舞衣さんに呼ばれる。場所を移動するらしい。軽やかな足取りで、彼女の呼ぶ方へと向かう。

 僕の不安や心配事は、たった一度の外出で、こんなにも解消されるのか。

 恋は人を盲目にさせるという。僕には必要のないものだと思っていた。だが。ここまで気を楽にさせてくれるのなら、悪くないのかもしれない。

 舞衣さんといると、ただの一人の人間でいられるような、そんな気がした。

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