第12話 保護者会【side:霧玄】
「舞衣が優司くんとデートするみたいだし、その間、武瑠くんは僕と飲まない?」なんて、この忙しい時に呑気な電話がかかってくる。俺たちはそれどころじゃない。邪神の件の残党の対処に追われていた。だからこそ「無理だ」と断った。しかし、「優司くんのことで話したいことがある」と言われれば断れない。優司たちの問題は、避けられないものだ。
仕方なく承諾したら、
「いやー、めでたいよね! 舞衣もそんな年頃かぁ〜。大きくなったよなぁ。つい最近まで、こんなにも小さかったのに!」
このザマだ。
「……その小ささだとハムスターくらいだが」
「ハムスター! ははっ、ハムスターなぁ! 可愛いよな、ハムスター。舞衣みたいだ!」
「はぁ」
酒に呑まれて話にならない。こんなことなら、来るんじゃなかった。ただの飲み会だ。無駄な時間が過ぎていく。
「……ハムスターみたいに、自由に生きることができたら良かったのにな」
礼治の一言に、ピタリと動きを止める。
「なぁ、武瑠。君はどうだ」
「どう、とは?」
「僕はね、後悔しているよ。舞衣に辛い思いをさせてしまうことを」
「……礼治」
「神楽の娘に産んでしまったことが、本当に、申し訳ない」
「彼女の命を作ったのはお前たちだろ。産んだことを後悔するのは失礼だ」
「……ははっ、そうか。そうだね」
だいぶ酔っているようだ。柄にもなく、弱音を吐いている。普段は優司同様、ニコニコ笑っているが、やはりこのタイプの人間は一人で何かを抱え込みやすいのか。酒が入っているなら、都合が良い。今のうちに吐き出させる。
「そもそも、神守だろうと、神楽だろうと、今となっては関係ないだろう。常に戦闘している時代は終わった。今からでも、遅くない」
「そうとも言えないんだ。舞衣は、次期頭首になる可能性が高い」
「……なんだと?」
女性の頭首は珍しくない。大鳳家は代々女性が頭首だ。男女の差は存在しない。力を持つ者が頭首になるのが決まりだ。だが、それはつまり
「秀治は、慰霊の力を持っていないのか?」
神楽家においての必須な『力』は『慰霊』だ。舞衣はそれを持っている。逆に、秀治が頭首になれない理由があるとすれば、つまりそういうこと。
「優司くんも神守最後の頭首。舞衣は次期神楽頭首。結婚は難しい。それに、万が一があれば二人は……」
「殺し合わなくてはならない、か」
礼治の口から、「殺し合い」という言葉を聞きたくなくて、遮る。
「安心しろ。俺は、優司をバケモノにする気はない。悲劇はあの日だけで十分だ」
二度と、悲劇は繰り返さない。今度こそ、俺は力をつけた。守れるだけの力を。
「保護者として、子どもたちを信じて、未来を見守ろう。きっと、彼らの未来は明るい」
煙草を吸いながら、礼治に話す。すると、彼は「そうだな」と、いつもの調子で笑い、一口、酒を口に含んだ。
青空がオレンジ色に変わるまで、二人きりの保護者会は続いた。笑い声が絶えない。
こうして、俺たちが笑い合えているのだから大丈夫だ。きっと、優司たちだって。いつか。
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