第40話 異変

 「もうやめろ、主ッ!!」


霧玄さんと共闘中、叫び声でハッとした。目の前で散っていたのは、敵の残骸と自分の血液。どうして、こんなことになっているのだろう。僕は、後方で彼を支援していたはずなのに。


「クソッ、血が止まらない……」


懸命に回復をしてもらっているが、傷口に痛みを感じることはなかった。以前は燐火とリンクした影響だったはずだ。だが、これではまるで僕が鈍感になっているみたいではないか。


「何故動いた。というか、何故動けた。この傷じゃ、立っていることすら厳しいだろう」


静かに聞かれ、僕は答える。


「痛みを感じないんです、最近。ですから、気がつかないんですよ。自分が怪我をしていることにも、相手のダメージ状況にも。頭の中が霧に覆われているような、そんな感じで……」


彼になら話しても良いと思った。だから、事実を述べた。それなのに


「……変なことを聞いても良いか」

「え? あ、はい」

「お前の役割は、何だ」

「神と人との均衡を保つべく、ものです。神の総意が、僕の在り方です。僕は、それに従うのみ……ですが……」


僕が答えた瞬間、霧玄さんは、先日の舞衣さんと同じ顔でこちらを見ていた。


「な、んで……そんな顔、するんです……?」


サァーッ、と血の気が引いていく。体は冷たくなっていく一方で、汗は気持ち悪いほど出る。吐き気が酷い。


「お前は、に行くのか……」


哀しい目で見ないで欲しい。嫌だ。こんな現実受け入れたくない。夢であれ。今まで、何度も見てきた悪夢と同じじゃないか。どうか、夢であれ。夢であれ。そう願っても、状況が変わることはない。いつもなら、この辺で悠麒さんや悠斗くんたちが呼びかけてくれて、目を覚ますはずだった。それがないということは、つまり


「……あぁ。僕は人類の敵になったのですね」


霧玄さんが言葉を失っている。この言葉に、嘘偽りがない証拠だった。


「だが、まだお前は人間だろう。大丈夫、間に合う。まだ引き返せる」


彼が取り乱している様を見て、確信した。


「無理ですよ、もう」


自分の体のことは、自分が一番わかっている。


「神化、しているんですね」


きっと、そのうち死ぬことすらなくなる。


「大戦を、生き抜くために」


神と同じ存在になって、僕は、


「人類を、滅ぼすために」


神の操り人形として、生まれ変わる。


「ち、違う……お前は、お前だ……」


苦し紛れに、霧玄さんは言葉を捻り出す。だが、僕は諦めてしまっていた。

 長い苦しみの中で蓄積されたものが溢れたのだろう。それだけだ。恐れることはない。

 霧玄さんを置いて、僕はフラリと自分の家を目指した。今は、ただ、味方悠麒さんに会いたかった。

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