第63話 神守家の崩壊②【side:幸希】
その光景を目の当たりにし、言葉を失った。見ているだけで気分が悪くなる。それを優司は六歳で経験して、挙げ句の果てには自分を責め続けて生きて来たのだ。
「俺も初めて見たが……そうか、これが悠麒のついた嘘……」
「え、嘘?」
拍子抜けした声が思わず漏れる。
「あ、いや、あの黒い玉の話だ」
それに対し、霧玄さんはあわあわと訂正した。
「見ているものは全て真実だ。ただ、失った『空白の時間』を上手く誤魔化したな、と」
「気を失った時……みなさんは、真実を知っているんですか?」
「目撃したのは悠麒だけだ。話によると、あの玉の正体は優司の霊力だそうだ」
「……はい?」
ここでふと、優司と悠斗の会話を思い出す。
『霊力ってどんな感じなの? オーラみたいなやつ?』
『その人の特徴を表していることが多いのだと教わりました。例えば、青龍なら青、朱雀なら赤など。舞衣さんは桃色ですね。善良な霊や神なら澄んだ色をしていますし、邪悪なら濁った色になります』
『へぇ、結構わかりやすいんだな』
『えぇ。ですから人柄も一目でわかりますよ』
てっきり優司は緑だと思っていた。優しくて、穏やかで、美しい自然の色。
「黒、なんですか? 優司の霊力は」
「当時は澄んだ黄緑だったな。今は青緑だが」
「では、何故……」
「本来の霊力が、黒ということだろう」
霧玄さんは難しい顔をして、ゆっくりと語る。
「真司さんは、優司が生まれた時からわかっていたのかもしれない。あいつが『絶望の器』に選ばれたと。だから隠したんだ。霊力を無理に切り離して、優司には霊力がないものとして、戦いから遠ざけて……だが……」
「霊力を切り離しても、数字が変わるわけじゃない。騙すにも限界がある。戦いから遠ざけていたとしても、本人は望んでいた。『兄の力になりたい』『仲間外れは、一人は嫌だ』と」
僕の言葉に、霧玄さんは無言で頷く。
「引き寄せてしまったんだろうな。隠していた霊力を、優司の思いが。自分自身に力を与えるために」
残酷な結末だ。優司はただ家族の力になりたいと願っただけなのに、その願いが家族を殺してしまった。本来、救うために使われるはずの力が壊すために使われてしまった。ショックは、さぞかし大きかっただろう。
「戻ったはずの霊力が再び失われたのは、真司さんと光司が優司の心の奥底に閉じ込めたからだと、俺は推測している。あの日から、優司の中に二人の霊力を感じるんだ。きっと、二人で優司の本来の力を押さえ込んでいるんだろう」
どうして、そこまで。優司に殺されたのに。
「そうする価値があるくらい、優司は優しくて良い子なんだ。優司に絶望なんて似合わない。幸せになって欲しい。そう願ったんだよ。文字通り、命を懸けることができるほどに」
「俺でもそうする」と、僕の心を読んだのか、彼は言う。確かに優司は良い奴だ。笑っていて欲しいと、僕も思う。人柱だというだけでも、十分に辛い運命を背負っている。それなのに、更に彼を追い込むのか。優しい彼を、絶望の器という最悪の席に。
この世は、なんて無情なのだろう。
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