第64話 神守一門の再生③【side:幸希】

 「うっ……」


吐き気に口を押さえる。あまりにもグロテスクかつ、リアルな光景に目が離せない。離しても離れない。これは流石にキツいか。

 隣には、拳をきつく握る霧玄さんがいた。


「だ、ぃじょぶ、ですか……?」


まず自分が大丈夫ではなかったが聞いてみる。すると


「あぁ。過ぎた話だ」


彼は静かに、堪えるように言った。


(一応、やっぱり気にしているんだなぁ)


彼から人間らしさを感じられて安心する自分がいる一方で、懸念も少々。


「トラウマにトラウマが重なった感じですが、優司は大丈夫だったんです? その、精神的な面で……」


当時、霧玄さんが塞ぎ込んでしまっていたら。間違いなく、優司に対して精神的に追い討ちがかかっていたことになる。それを抜きにしても苦しんだはずだ。すぐにでも自殺しそうなものだが。


「何度自殺しそうになったかわからん。毎回、俺と妻で止めていたが……あとちょっとで死にかけていた時もあったな」


やっぱりか。


「よくあそこまで持ち直しましたね」


僕が言えば、霧玄さんは遠くを見つめながら


「まぁ、それなりにこちらも努力したからな」


そう小さく溢した。


「なかなか難しいんだ、トラウマを拭うって。俺も少し気に病んでいたが、優司はそれ以上に苦しんでいたし……従者全員でなんとか優司の笑顔を取り戻そうと必死だったさ」


苦笑する彼の顔には、何故だろう、どこか深い愛情を感じられた。


「どうして、そこまで?」


僕のシンプルな問いに、霧玄さんもシンプルに答える。


「好きだからだろ」



 こんなにも愛されているのに、優司は盲目になっているのか。そりゃあ、苦しいわけだな。

 でもそうさせたのはどうしようもない力で、打つ手はなくて。

 神守一門を見ていると、自分がいかに幸せな環境で育っていたのかを痛感する。

 悔しい。こんなにも近くにいて、事情も知ることができて、わかった気になっているのに、所詮は「わかった気になっている」だけだ。何一つしてやれることはない。


 悔しい。ただ、悔しかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る