第45話 覚醒②【side:霧玄】
「…………は、ぁ?」
気がつけば、俺は随分と寝心地の良いベッドの上で横になっていた。
「気がついたか? 良かったな、死ななくて」
白虎に言われ、思い出してゾッとする。忘れていたが、神化の儀よりも、こちらの儀式の方が死亡率は圧倒的に高い。目の前のことに必死で失念していた。完全に、リスクの管理を怠っていた。だが、結果としては成功。良しとする。
「動くなよ。あと二日は動けないと思え。大人しく、我らに世話されることだな」
だから、人間の姿になっていたのか。まさか、神に身の回りの世話をさせるとは。なんという無礼。申し訳ない。
「ちなみに、貴様が寝ていたのは三日だ。少し『悠麒麟児』よりも遅かったな」
少し悔しいが、仕方ない。悠麒は人間としても強い。敵わない相手だ。それに、もう一度あの苦しみを繰り返したくはない。初めて死の境を本気で
「貴様が今を生きているのは、無論、貴様の力でもあるが、麒麟の加護のお陰でもある。後で感謝しておくが良い」
「悠麒が?」と問おうとしたが、声が出ない。しかし、白虎はそれを汲み取ってくれたようで
「しばらく、見守っていたぞ。貴様が生死の境を行き来しているであろう時に『死ぬな』と。意識的か否かは知らんが、我々の持つ言霊の力とは
「忙しい奴だな」と笑う白虎に、俺も笑うことしかできなかった。悠麒が何を考えているのか未だにわからない。常に、優司のことを考えているのは確かだが……。
「さて、雑談はこの辺りで」
白虎はゆっくりと立ち上がると、指をパチンと鳴らした。と、同時に、ふわりと青龍・朱雀が現れる。
「ようこそ、神の世界へ。我々は貴様を新たな玄武として歓迎しよう」
白虎の言葉の後、俺は強い光に包まれた。これが『祝福』というものだろうか。
「お前の中に眠る玄武が助言してくれる、とは思うが……一応、こちらからも説明させてもらおう」
青龍はいくつかの書物を手に取ると、丁寧に、書物を開いて文章を読み上げる。
「基本的に、お前が私たち神に縛られることはない。神守に仕えて街を守る。今までしてきたことを続けろ。但し、異なることは代替わりがないということ。一生だ。何百、何千、何万と生きたとしても、死ぬまで戦い続ける。万が一死んでも、お前の魂は天に送られる。お前は人として死に、玄武は神として元に戻るだけだ。その点は安心すると良い」
なるほど。神と同化しても、魂の本質は変わらない。俺の魂が神として消滅することはない。死後はきちんと裁かれて、転生できると。
「お前ができるようになったことは、天界への移動、つまり霊体化。他は身体能力の向上や、霊力の向上があるが、これは説明するより体感してもらう方が早い。ほぼ不老不死、と覚えてもらって差し支えない」
では、どのような時に死ぬのか。俺の疑問を、朱雀が解消する。
「貴方が死ぬ条件は一つ。玄武が『この器では役目を果たせない』と判断した時のみです。大抵は何とかなりますが、身動きが取れないくらい縛られて殺され続ける、ということが一度ありました。今のところ、前例はそれくらいです」
それを聞いて、少しゾッとした。過去にそんなことがあったのか。
「逆に失ったものもある。少しは自覚していると思うが、『人の心』だ」
青龍に言われて、ようやく、自分が普段以上に冷静であったことに気がついた。そして、そのことが何を示すのか、機械的に理解した。
「二度と、人と同じように、笑ったり泣いたり怒ったりはできないだろう。人間界で生きるのなら、そのズレは自覚しておくべきだ。冷静な判断ができるメリットではあるんだがな」
俺と大切な人を繋ぐ『想い』が薄れてしまったと。絆は、あってないようなものになったと。
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