第46話 利害の一致①【side:波青】

 特訓の休憩中、


「そういえば、僕はまだあなたに習っていても良いのですか?」


坊はふと、そんなことを聞いてきた。


「ついに我が主を殺す気になりましたか?」


余裕の笑みを浮かべてやれば、ぶんぶんと首を横に振る。必死な様子に「でしょうね」とまた笑って見せれば、坊は頰を膨らませた。短い間とはいえ、彼を見ていたら、人を殺すつもりはないことくらいわかる。しかし、彼はやはり


「僕は優司くんを殺しませんが……父さんは、優司くんを殺すつもりだと言っていました。姉ちゃんも、今は迷っているみたいですけど……たぶん、最後は仕事の方を優先するんじゃないかなって……思って……」


仮にも、神楽の息子として。それなりに困惑はあるらしい。だが、見当違いなことが一つ。


「あなたを強くしたところで、私にデメリットなんてないんですよ」


私が言えば、坊は驚いた表情を見せる。


「本気の私に、あなたが勝てるとでも?」


ここまで言うと理解してくれた。そう、我々は神守一門。神を守る代わりに、その加護を身に受けるもの。神楽家頭首なら話は別だが、神楽だからと恐れることはない。ただ、問題は


「あなたは良いんです。それなりに、信用だってしています。しかし、困りましたね。お嬢が主の敵になっては、主は暴走するばかりです」


主の恋人であるお嬢が、主の敵に……つまり彼を裏切るようなことをすれば、彼の絶望は深く濃くなる。暴走してしまえば、手に負えるか。器の伝説が本物なら、私は彼に負ける可能性がある。流石に、全ての神を統制する男に勝てる自信はない。


「そうですね……。私が今、お嬢に会うことはできますか?」

「今、ですか?」

「あなたの力でそこさえ何とかしてくれたら、あなたの思い通りの結末を届けましょう」

「……それって、神楽家を滅ぼすことも、優司くんを殺すことも、ないってことですか」

「そのつもりでいますよ、私は」

「どうして、そこまで……」


どうして? 私の想いは始めから変わらない。


「彼に幸せを貰った分、私は彼に幸せになって欲しいのです。それだけですよ。正直な話、神楽家がどうのこうのは興味ありません。主が神楽舞衣を必要としているから、私にもあなたたちが必要なのです」


それを聞いた坊は、腑に落ちたのか、目を丸くして、口を少し開いた。そうして、拳をきつく握りしめると、真っ直ぐに私を見て宣言する。


「目的が同じなら、躊躇ためらう必要はありません。姉ちゃんを説得しましょう。我々、二人で」


私たちはお互いに手を差し出すと、握手を交わした。彼の手は、じんじんと熱く、心強い力を持っていた。

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