第79話 誕生秘話②
「あぁ……」と微妙な空気が流れる。かなり気まずい。今、まさに、僕らは初代と同じ道を辿ろうとしているのだから。
「いや、責めるつもりはないんだ。特殊な人間にしてしまったのは我々であって、奴らにも、自由に生きる権利はあったんだ。だが」
蓬莱の話の途中、突然悠麒さんは僕を庇うようにして短刀を構えた。なんだ、と見てみれば、黄泉がこちらを凝視している。軽くホラーで、ひっ、と悲鳴をあげれば、黄泉から良い笑顔が向けられた。ちょっと怖いな、この神。
「……お察しの通り、黄泉は自分の子どもへの愛が異常なほど大きい。嫉妬して、勝手に! 許可もなく! 突然! 神守を自分と同じ存在に変えてしまった。人間が神の力に耐えられるはずもなく、結果、心身共に神に取り込まれたわけだ」
強調される黄泉の欠点。全力の訴えから当時の彼女の怒りが見えてくる。
「神に取り込まれれば、神の傀儡として生きる他にない。体はもちろん、人形のように痛みも痒みも感じない。思考も、神の意のままに洗脳されたものになる。五感が奪われた状態だね。それが、『器』と言われる由来かな」
悠麒さんの言葉に彼女は頷き、付け加える。
「もう一つ。黄泉は冥界の番人。あらゆる負の感情を司る。それと同じ存在にされた神守は、代々、原動力を負の感情にする。神守が恨まれ続けてきた理由はそこにあるのだろう。まぁ、恨まれて強くなるのだから、好都合だったようだが」
ということは、父は最も人から恨まれた人間ということか。なんだか嬉しくないな。
「優司が最弱だったのは恨まれにくかったからなのか。お人好しだからなぁ……」
「左様。しかし逆を言うなら、その分、一人で溜め込んだのだ。あらゆる負の感情……絶望を一人で背負い、吸収し、そして、放つ。絶望が溢れるまでわからない、まさに『絶望の器』となった。代々『絶望の器』に選ばれるのは優司みたいな奴だったよ。初代・神守そっくりの、お人好しで、優しい、神たらし。溜め込むからそうなるんだ、馬鹿め」
最後、ストレートに悪口言われたな。ちょっと傷つく。
「でもでもぉ? そんなところが可愛いね! 一人で健気に戦う優司は最っ高に可愛いよ! 大丈夫。世界が優司を見捨てたら、この僕が、責任を持ってもらっちゃうからね〜。むしろ、その方がハッピーって感じ?」
復活した黄泉を睨み、盛大なため息をつく蓬莱を見ていると、やはり彼女は苦労人なのだと、少し気の毒になる。
「ふざけるな。お前がそうなるように毎回毎回仕向けているんだろうが」
「えっ」
「騙されるなよ、優司。こいつがお前の不幸の元凶だからな。自分のものにするためにお前を不幸な目に遭わせたのコイツだぞ。トラウマが長い間消えなかったのも、五感失われたのも、大切な人からの視線が痛く感じたのも、全部、全部全部コイツのせいだからな」
「えぇ……」
この神のせいだったのか。どうやら僕は厄介な神に好かれてしまったようだ。
「殺していいですか?」
「奇遇だね、お嬢。僕も同じこと考えていた」
舞衣さんと悠麒さんから殺気が立つ。しかし
「待て。コイツを殺したいのは私だって同じ。だがコイツは最悪なことに冥界の番人。殺せば冥界から罪人の亡者と封印した邪神が現世へと溢れ出る」
蓬莱はそれを苦々しい表情で制止し、改めて、話を進めた。
「次は、お前たちが戦う理由だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます