第8話 わかり合えない③【side:悠麒】

 待ち合わせの場所にいたお嬢は、驚くほどに不機嫌だった。


「おい。何があった」


お嬢の周りをうろちょろしていた燐火に問う。


「別に? 青龍が正論言ったら、何故か不機嫌になった」

「はぁ? これだからガキは……」

「やっぱり根本的に合わないんだよ。お前らとお嬢」


勘弁してくれ、と頭を抱える。早速、雲行きが怪しいじゃないか。青龍は甘い方だぞ? 僕とお嬢、相性最悪じゃないか?


「おーい」


とりあえず、声をかけてみる。


「こんにちは」


返ってきた挨拶の声色は普通だった。が、顔色を見て驚く。僕はこの目に見慣れている。人が簡単に見せるもの。失望の目だ。


(なるほど、信用ゼロね。主以外の神守一門は嫌いです、と)


さて。そんな弱い心でいつまで耐えられるか。この世界は地獄だ。この程度で失望するなら、主と付き合うのは難しいかもしれない。


(主の心の安寧のためだ。一肌、脱ぎますか)


お嬢を殺せば、最悪の事態は防げる。しかし、同時に、主は再び心を閉ざすだろう。それだけは避けたい。主には幸せに生きて欲しい。その幸せの一つが、お嬢と共にあること。ならば、今、お嬢を失うわけにはいかない。


「お嬢、僕と別行動しよう。効率を上げたい。僕の式をあげるから、その式の進む方へ行き、邪神化した神を戻してあげて。式がお嬢を守るから、安心して仕事をしてくれ」


僕の血が染み込んだ式をお嬢に渡す。


「……あなたは?」

「僕は僕の仕事をする。もし何かあったら駆けつけるから、『麒麟』って叫んで呼んで」


少し警戒されたが、大人しく承諾するお嬢。


「燐火、お嬢を頼むよ」


小声で燐火に合図をすると、それに応えるように風が強く吹いた。それと同時に、目的地まで飛んでいく。



 「はーい。主の命を狙ったお前は問答無用で殺しまーす」


 敵に気づかれる前に、背後に回り込んで首を掻っ切る。抵抗を許さずに、お嬢にこの世界を見せることなく、迅速に仕事を終わらせた。

 これで不満はないだろう。



 「ただいま」


自分の式の気配を追い、お嬢の元に戻る。お嬢はしっかりと役目を果たしていた。しかし、『慰霊』の力は本当に便利だ。みるみるうちに邪神化させられた神々が、善良な神々に戻っていく。


「ありがとうな、嬢ちゃん」

「助かりました」


そんな言葉をかけられて、にこにこと手を振るお嬢。こういうところは流石、と言うべきか。


「こちらとしても助かるよ。これで主の無事も保証される」


柄にもなく礼を伝えてみたが、お嬢は「いえ」と静かに笑って済ました。


「……やはり、殺したんですか?」

「ん?」

「主犯の神様です」

「あー、うん。一瞬で、楽に殺してあげたよ」

「そうですか」


なかなか機嫌を直さない。この状態のお嬢を、玄武に渡すのか。日を改めてコレなら、明日もこんな感じだろう。玄武、可哀想だな。


 まぁ、僕には関係ないか。

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