第76話 神守・神楽の真実③

 「……舞衣さん、これは」


日記の最後のページに書かれていた文を見て、僕は言葉を失った。間違いない。これは神楽家初代頭首が書いたもの。そして彼の愛していた人が、まさかの因縁と言われ続けていた神守家初代頭首。


「周囲の人間によって、事実が改変されていたみたいね。その方が都合が良かったのかしら。それにしても、酷いわね、これ」


僕らが辿っていたかもしれない未来が、そこに記されていた。僕らが生まれる前からずっと、これは定められた運命だったのかもしれない。或いは、彼女が僕として、彼が舞衣さんとして転生したのか。何はともあれ、複雑だ。まるで茶番ではないか。


「先に言っておくけど、私のこの気持ちは本物だから」


釘を刺すように言われる。


「存じております……」


今更、彼女の愛をどうして否定できるだろう。散々思い知らされたのだ。そこに疑いはない。だが


「……ただ、これが上手くいった場合、神々はどうなるのでしょう」


仮にも、神に苦しめられた過去はある。だが、そればかりが神でないことを僕は知っている。燐火だって、僕を思うが故に行動をしたまででそこに悪意はなかった。神々も不器用なのだ。人間とそう変わらない。そんな彼らを、僕ら『絶望の器』を作り出しそこに縋った彼らを、僕は簡単に突き放せない。もしも僕がこの役を降りたら、彼らは何に縋って生きれば良い? 彼らなりに、『希望の器』を作るという、人間に対する配慮までしてくれている中で、僕は、彼らを突き放すのか? 自分のためだけに?


 黙り込む二人。その空気を察してか、みんなまで重苦しい空気を漂わせる。


「そんなに悩むくらいなら、直接聞きに行けば良いんじゃないの? その神々に、さ」


それを見兼ねてか、悠麒さんはしれっと言う。


「一体、どなたに、どうやって……」

「君の父親に探らせたら? 使いなよ、使えるもの全部。君は持っているんだからさ」


物みたいに言われると気は引けるが、今、僕の知人の中で最も神に詳しい人は確かに父くらいだろう。兄は……たぶん「興味なーい」とかでまた適当にのらりくらりしているだろうから。ただ、


「……いや、冥界に行ってみます。そこで家族と合流して、助言をもらい、なんとか僕の創造神を見つけて、直接話し合って来ます。なんだか、その方が誠実な気がしてきました」


他人任せよりはこの方が良いだろう。


「冥界!? え、死ぬってこと?! 帰って、来れるんだよね……?」


奏真くんが不安げに問う。


「大丈夫です。少し学校は休みますが……必ず、帰ってきますよ」


何度か冥界には行ったことがあるから大丈夫なはずだ。おそらく。


「じゃあ、私も行くわ」

「それはダメです」

「なんでよ!」


即答で答えれば、舞衣さんは不服そうに、その頬を膨らませる。


「冥界に行くには、まず仮死状態になる必要があります。まずこの時点で同行はお断りします。加えて、帰れなくなる可能性があります。僕らは慣れていますからなんとかできますが、経験のない人を連れて立ち回れるほどの力は僕にありませんし、治安が悪いのでシンプルに戦闘慣れしていない人が行くのは危ないかと。最悪そのまま死にます。帰る云々の前に、死にます」


強く言い聞かせるが、あまり効果はないようで


「それでも、優司くん一人にばかり、任せられないわ。でいるためにも」


うっ、痛いところを突いて来る……。


「ど、うしましょうかねぇ……」


悠麒さんに助け舟を求めれば、


「僕はついて行く前提として、お嬢も来るならもう一人くらい助っ人が欲しいね」


秀治くんは経験が浅いからなるべく避けたい。大鳳さんは学校があるし、何より年下の女の子である彼女に冥界に来てくださいとお願いするのは気が引ける。悠麒さんを連れて行き、なおかつ霧玄さんも冥界へ連れて行くというのは、現世で万が一が起こった場合を考えると避けるべきだ。となると


「彼に、頼んでみますか」


残るは一人。白虎・古白虎雄さん。彼に希望のぞみをかけよう。

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