第76話 神守・神楽の真実②
『これを読んでいる人がいるのなら、それはきっと、私たちのような運命を背負う者であることだろう。これは“希望”或いは“絶望”をその身に背負う者にしか読むことのできない書物である。このような術を施したことには、相応の理由があるのだ。
私は慰霊のために神楽を舞ってきた。苗字も神から“神楽”と授かった。同じく神より、神を守りし者として苗字を“神守”と授かった彼女と共に、人と神を繋ぐ存在として、役割を担って来た者である。
私たちは苗字とは別に、もう一つ、神々より役職を頂いた。それがまさに“希望”と“絶望”である。絶望と言えど、これは決して、不名誉なものではない。ただ、人間には荷が重すぎた。それだけのことだった。
具体的に、“希望”と“絶望”とは何かという話だが、これは人類に対する不満が爆発した際に神々の代理として人間を統制する者が“絶望”、これに対し人間の尊厳を守るべく作られた救済処置が“希望”である。余程のことがない限りは生まれない存在だが、生まれたということは、それだけ神と人の均衡が崩れている証拠だ。気をつけるに越したことはない。
人間は負の感情が溜まると発散のために暴走することがある。神々はそれを煩わしく思っているだけで、何も人間を滅ぼしたいというわけではない。つまり、大人しくしていれば良い。しかしそのための最も迅速な方法が絶滅であるために、“絶望”に選ばれし者は人間を滅ぼそうと動き始める。同時にそれを殺そうと動き出す者が私のような“希望”を担う者だ。
私は愛する人をこの手で殺した。その人が、まさに“絶望”だったからだ。こんな思いをする者は私だけで良い。よって、ここに、解決策を記す。これは私が愛する人を殺した後に発見したものである。生きた人間に効果があるかはまだわからない。だが、試してみて欲しい。
この書物は“希望”或いは“絶望”の役割を担う者にしか読むことのできないものである。この苦しみは、当人にしかわからない。もしこれを読む貴殿がその当人であるのなら、私の気持ちを理解できるはずだ。持たぬ者には理解できぬ持てる者の苦悩がある。持たぬ者にこれを読み捨てられてはたまらない。そんな思いでこれを封じた。
下手をすれば我々の在り方が変わる。だが、その覚悟があるのなら。対になる者を救いたいと心から願うのなら、試して欲しい。
慰霊の神楽。
我が一族の神楽は伝承されていくはずだ。神々へ捧ぐこの舞は、難易度が高い分、効果はある。神々だけでなく霊にも効果があるのだ。この舞により、多くの迷える魂が救われた。
この舞と、“慰霊”の力を併せる。もちろん、舞による体力と精神力の消費、慰霊の力による霊力の消費、その全てによって疲弊することは確かである。だが、これができたのなら、対となる存在……つまり“絶望”を担う者……“神守の子”を救うことができるはずである。
仕組みはわからない。だが、少なくとも私の愛する人……神守は確かにそれで安らかな顔をしたのだ。慰霊の優しい光に包まれ、負の感情という重荷で潰れそうだった彼女の黒く濁った魂は浄化された。もっと早くこれができていたなら、これに気づけていたのなら、私は彼女を殺さずに済んだのだ。
彼女の霊力は黒かった。だが、慰霊の力を舞に込めてかけてから、澄んだ黄色に変わった。変わって、消えてしまった。そうだ、人間とは生まれながらにして悪ではない。彼女の霊力も始めから黒だったのではなく、神々によって、その色を闇に染められてしまっただけなのだ。本来の色はあの色だったのだと、私は思う。
すまない、深い悲しみが邪魔をして私のことばかり書いてしまった。これ以上の醜態を晒すことはできない。切り上げようと思う。
とにかく、慰霊と神楽を組み合わせて試してみてくれ。それで、絶望から相方を救えるかもしれない。言いたいことはそれだけだ。
これを読む全ての役職者に、幸あれ』
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