第3話 守るべきもの②
呆然とする僕に、優美さんが微笑む。
「武瑠さんも『守る』って言ってくれたけど、守られるほど弱くないわよ。彼の事情を知った上で惚れたのだから、告白する時には、覚悟を決めていたわ」
「彼女ちゃんも同じだと思うわ」と言われれば舞衣さんの言葉を思い出す。確かに、同じことを言っていた。
「……まぁ、男としては守らせて欲しいよな」
ふと、霧玄さんが煙草に火をつけながら言う。
「守るための力はある。それなのに使いこなせない。これほどもどかしいものはない」
まったく、その通りだ。非力という自覚はあるが、一般人よりは鍛えられている。もし、僕が普通の人間であれば、彼女を守ることは容易いはずだ。それでも、
「守られること自体は嬉しいわよ。いつも感謝しているわ。でも、私はあなたを少しでもいいから支えたいの。幸も不幸も分かち合いたい。それにどんな苦しみも、二人なら、きっと耐えられるわ」
ただ、優美さんの言うことも理解できた。僕が従者の五人に思うことと似ていたからだ。僕は『分かち合いたい』とは思わないが、少しでも良いから支えたい、力になりたいと思う。弱いことは承知の上で、そう思う。その感情に近いものがあるのだろう。
「まぁ、焦ることはない。こんなに一緒にいるのに、俺は未だにこいつのことをわかってやれないことがある。付き合って数日だろう。そう簡単にわかり合えてたまるか」
少し意地悪に言う霧玄さん。しかし、その言葉には思いやりを感じた。
「そうね。焦らず、少しずつでいいのよ」
優美さんもそう言い残し、食器を洗いに行く。
霧玄さんと二人きりになり、沈黙が訪れる。
「……難しいよな」
沈黙を破った言葉はそれだった。
「お前は俺にみたいになるなよ」
憂いを帯びた顔と声。どう答えるのが正解か、わからない。返答に困っていると、霧玄さんは僕の頭をそっと撫で、少し微笑んだ。
「プライドは大切なもの全てを奪う。守るべきものを間違えるなよ」
「守るべきもの、ですか……?」
「頼むから『神』とか言うなよ。それは仕事。お前の守るべきものは『命』と『幸せ』だ」
「命と、幸せ……」
復唱したことがおかしかったのか、クスクスと笑う霧玄さん。豪快な笑い方が印象的だった彼が、優美さんと長くいるからか、いつのまにか静かに笑えるようになっていた。単純に大人になったからかもしれないが、そんな些細な変化に喜んでいる自分がいる。と、同時に寂しがる自分もいた。
「何かあったら言えよ。お前は俺たちの息子。俺にとって、『守りたいもの』なんだ」
「いつでもここに帰って来ていいのよ。待っているから」
あえて『べき』という言葉を使わなかったか、あるいは偶然なのか。真意はわからない。だが二人の言葉に、安心と幸福を感じた。
この人の前だと、僕は随分と子どもになってしまう。霧玄さんは、不思議な人だ。
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