第3話 守るべきもの③

 __ガタガタガタッ


 突然の揺れに、僕らは同時に立ち上がる。


「あぁ、わかっているさ。


互いに顔を見合わせると、逆方向に走り出す。


「麒麟を呼んでください」


なるべく音を立てないように走りながら、式神を飛ばす。台所に誰もいないことを確認すると、寝室へと向かう。流石は、霧玄一家。緊急時の対応が早い。寝室には、優美さんと子どもたちが揃っていた。


「こちらのブレスレットを」


優美さんに、自分のつけていたブレスレットを渡す。ある程度の攻撃なら、耐えられるはず。


「優司くんは?」

「大丈夫です。優秀な従者がいますから」


すやすやと眠る二人を見て、ふっ、と笑う。


「守りきります」


優美さんに子どもたちを託し、霧玄さんの元へ向かう。途中、窓の外が光を放つ。おそらく、霧玄さんが結界を張り直したのだろう。ということは、割と強力な相手なのだと覚悟して外に出る。

 すると、巨大な怨霊が待ち構えていた。


「お待たせ。状況は?」


急遽、駆けつけてくれた悠麒さんが、僕の隣に着地する。


「ご覧の通り、怨霊が一体。中級かと」

「了解」


僕が言うと、彼は霧玄さんに合図を送る。霧玄さんは、合図と同時に怨霊に銃を放つ。霊力の弾丸は、一般人には聞こえない音を立て、怨霊を貫通する。当然、自分に害を与える者を排除しようと、霧玄さんに怨霊が襲いかかる。


「……悪いね。終わりだ」


霧玄さんが怨霊を惹きつけている間に、怨霊の背後に回った悠麒さんが空を飛ぶ。タイミングを合わせて、僕が簡易的な結界で怨霊を囲う。被害が出ないことを確認すると、悠麒さんは、自作の手榴弾を投げつけた。結界内に手榴弾が落ちていく。


 目が眩むほどの霊力が、怨霊を、跡形もなく消し去る。

 はらりと舞い散る、霊力の塊が美しい。


 殲滅を確認すると、すぐに霧玄さんの元へと駆け寄る。地面に座り込んでいるところを見ると、疲弊していることに違いはない。


「大丈夫。無傷だ」


どうやら疲れていただけのようで一安心する。


「とりあえず、霊力の回復だけ頼む。一応、妻と子どもたちの安否を確認したい」


言われるがまま、自分の霊力を彼に流し込む。僕自身の霊力的に、少し動ける程度にしか回復しないだろう。が、それで十分だったようで、彼は微笑みと共に「ありがとう」という感謝の言葉をくれた。


「結界を張り直しただろう? 被害はないさ」


少し抉れてしまった地面を戻しながら、ぽつりと悠麒さんが溢す。


「俺たちと違って、人間は脆いんだ。それに、傷つくのは体だけじゃない」


ゆらりと立ち上がりながら話す霧玄さん。悠麒さんはため息をついたものの、それ以上は何も言わなかった。

 霧玄さんが家の中へと入っていく。それを、二人で見届けた後、悠麒さんは静かに呟いた。


「半神のくせに。いや、所詮は人間か」


「僕は帰るよ」と残し、姿を消す悠麒さん。風に紛れていく彼の見せた表情に、かける言葉がなかった。

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