第8話 わかり合えない①【side:波青】

 正直、優司くんと神楽のお嬢が付き合うことには反対だった。彼がお嬢のことを想っていることは知っている。だが、相手は敵対勢力だ。根本的に合わないと、そう思っていた。

 先日、交際の報告を受け、まず驚いた。彼が一歩踏み出したのは、大きな成長だ。それが、本当に嬉しくて。祝福の言葉をあげたのは事実だった。けれど、思い返してみて少し後悔している。

 この先、優司くんが苦しむのは確実だ。本来なら、こちらの仕事に理解のある、一般女性と交際すべきところ。私は、お嬢のことを決して信頼しない。彼女は歴代神守家頭首を苦しめた一族。きっと、上手くいかない。優司くんは、奴らの甘い言葉に惑わされているだけだ。彼にトラウマだけを植え付けて、あっさり捨てるに違いない。


 私の祖母が、そうされたように。



 顔を見てしまったら、優司くんの想い人を、この手で殺してしまうかもしれない。それだけは避けたくて、待ち合わせの一時間前に目的地に居座った。ただの仕事仲間に会うのだ。そう暗示をかけながら、式神と時間を潰していると


「すみません、お待たせしました。神楽舞衣と申します。本日は、よろしくお願いします」


まだ待ち合わせの十五分前だというのに、彼女は姿を現した。優司くんの恋人になった人物、というだけある。しっかりしている人だ。が、


「いえ、まだ十五分前です。私が早く着き過ぎてしまっただけですから、お構いなく」


不信感は、簡単には拭えなかった。


「波青龍牙と申します。主より話は聞きました。ご協力、感謝します。よろしくお願いします」


貼り付けた偽りの笑顔を見たら、優司くんは、何と言うだろう。軽蔑するだろうか。優しい子だから、見逃してくれるのだろうか。それでも私は、少女に心を開くことができなかった。魂が、拒絶している。


「仕事中は『青龍』とお呼びください。主にはそう呼ばれています」

「わかりました」

「私は、あなたを『お嬢』と呼ばせていただきます」

「はい」


流石に露骨だっただろうか。心を読まれたかのように、口数が減る。都合は良いが、なんだかいじめているようで心地悪い。


 「さて、終わらせましょうか」


刀に手をかけ、森の奥へと入っていく。やはり悠麒殿の読み通りだ。ここから、邪神の気配がする。低級も多い。どれが敵だ……?


「あの」

「何です?」


お嬢に声をかけられ、止まることなく進む。


「かなり目立っていますが、大丈夫ですか? 位置がバレると不利だと聞いたので……」


悠麒殿が、何か言ったのだろうか。変に知識があるな。


「奇襲を得意とする者は、確かに相手に位置を把握させることを嫌いますね。私は見つかったところで問題はありません。むしろ向こうから来てくれた方が都合が良いのです」


「そうでしたか」と一言。それだけで、会話は終わった。再び沈黙が訪れる。


(確かに、殲滅の方が早かったかな……)


こんなことになるなら、悠麒殿の案に賛成しておくべきだったか。既にこの時、若干の後悔が胸の奥に芽生えていた。

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