第36話 選択②【side:霧玄】
悠麒の問いに、礼治は堂々と答える。
「僕は僕の責務を果たすまで。神楽家は、そのためにある。人類を滅亡させるのは許さない。彼を絶望ごと消し去る。その方が彼のためにもなるだろう」
一方、俺は迷っていた。
「玄武……いや、霧玄武瑠。君はどうする?」
悠麒が俺を名前で呼ぶ。この呼び方をされたのは二回目だった。
『霧玄武瑠、君が決めろ。先代から託された、小さな子ども……主を守り、育てるか。或いは主を捨て、殺すか』
彼が俺を名前で呼ぶ時は選択を迫る時だった。そして、その選択には
「私情を持ち込んでも良い。僕は責めないよ。どんな選択でも受け入れる。対応はするけど」
『従者』としてではなく、一人の人間として、『霧玄武瑠』としての意見を求められた。
「俺は……すまない、選べない……」
奥歯をギリッと噛む。悔しくて仕方がない。
「優司は俺の息子のようなものだ。守りたい。だが……優司を守れば、俺の本当の息子たちが死ぬのだろう。俺は二度と、大切な息子たちを死なせたくない。あんな思いは……」
トラウマが、フラッシュバックしそうになる。必死に「過去の話だ」と振り払う。が、気分は晴れない。気持ち悪い。吐きそうだ。
「それも一つの選択肢。だが、行動しなければどちらも失う。手遅れになる前に決断しろよ」
悠麒なりの優しさなのか、中途半端な答えへのお咎めはなかった。
「それと、これだけ伝えておいてやる」
悠麒は優司の頭を撫でると、食器を片付けつつ
「玄武が君を気に入っていた。僕と同じ土俵に立つチャンスだ。人間を辞めることと同じ意味を示すが……まぁ、好きにしろ」
そんなことを話した。
しばらくの静寂の後に、礼治が問う。
「この話は、舞衣たちにしておくかい?」
すると悠麒は意外にも
「何のために三人だけで話したんだ。いつか、嫌でも向き合うべき時が来る。それまで幸せな夢を見せてやろう。大人にできることは、その程度だ。気づかれるのも時間の問題だとは思うが……まぁ、汚れ仕事は引き受けるさ。慣れている」
俺たちの間で話を留めておくつもりらしい。
「……変わったねぇ、悠麒くん」
礼治の声色が、元に戻る。
「ははっ、違いない。主に絆されたのかもな」
悠麒もまた、ケラケラと笑いながら日常を取り戻した。
__俺は?
悲観的な考えが抜けない。この後、優司たち二人は殺し合うのか。それを知った優司は何を思うのか。俺の妻は、息子・娘は。俺は、どうなるんだ。どうするんだ。
関係が壊れていく未来しか見えない。これが絶望というものなのだろうか。これを、優司は常に見続けているのだろうか。それを、自力で打ち破ってきたというのだろうか。
与えられた選択肢を睨みながら、進んでいく時に怯える。
まさに、絶望へのカウントダウンを自覚した瞬間だった。
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