第57話 引き継がれた意志
「馬鹿な……」
呆然と口から溢れた言葉は、燐火の炎と、彼の放つ金属音によって掻き消された。
「何故、神楽の息子が青龍の力を……!?」
玄武の胸の中から這い出るようにして、疑問を口にする。
「どういうことですか、青龍!!」
青龍は答えない。ただ、こちらを困ったような顔をして見つめるのみ。
(青龍の本意ではない?)
彼の性格上、こういうリアクションをする時は事情がある。自分の意思での行動なら、もっと胸を張って堂々としているはずだ。
そもそも、神楽の息子には特殊な力はない。若干の霊力しかないはずだった。今はどうだ。青龍の力を我が物にしている。不思議に思い、よくよく観察すると、微かに波青龍牙の気配が彼の中にあった。
そこでようやく理解する。波青龍牙が、魂を青龍に捧げたのだと。故に彼は死んだ。必然的な死である。
とんだ茶番だ。呆れてものも言えない。
燐火は神楽秀治と対峙すると、そのまま戦闘を開始した。波青龍牙の魂を取り込んだこともあり、青龍の力は、圧倒的に強くなっている。神楽秀治の体を借りて、青龍が戦っている状況である。
特性的には燐火が有利であるはずが、青龍はそれを上回る力を発揮している。「流石は神守一門の専属」と言いたいところだが、立場的に今はそれどころではない。燐火に加勢しようと動くが、玄武にそれを封じられる。
「離してください。何も、無駄な戦いをしたいわけではないのです」
「終わるまで見守ってもらおうか。それとも、上級の神である彼が負けると?」
「神を守ることが僕の使命です。たとえ少しでも傷つけられそうになっているのなら、動くのが当然では?」
「人間に守られるような神にはお前を預けられねぇな。戻って来い。お前は迷走している」
話がまるで通じない。どうやらこの戦いは最後まで見守ることしかできなさそうだ。
「優司……」
どこかの人の子が僕の名を呼ぶ。僕は一つため息を溢すと、戦う二人の方を見た。
悔しいが、神楽秀治の体はさぞかし使い易いだろう。青龍に認められる条件は揃っている。波青龍牙が認めた人間なのだから当たり前だ。慰霊持ちではないにしても、神楽家の息子だというだけの実力もある。
燐火の炎よりも先に、毒を秘めた剣が彼に傷をつける。決して深い傷ではない。だが青龍の猛毒が着実に燐火の体力を削っていく。動きが鈍り始め、燐火の体に蔦が巻き付いては燃え、巻き付いては燃えを繰り返している。
遂には、青龍の剣が燐火の胸を貫いた。
「燐火!」
僕の声が彼に届くことはなく、彼は自らの炎に包まれて、消滅した。
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