第67話 見透かされた心【side:霧玄】
玄武の試練によく似ている。落下することはなかったが、感覚的にはこんなものだった。「地獄にいるのではないか」と錯覚する感じ。これが、神守の試練なのだろうか。だとすれば納得がいく。これが、深層心理に繋がることであると。
あの優司が、優司であることは確かだ。目を逸らせば逸らすほどに戻れなくなる。それは俺だけではない。優司も、だ。
「随分と余裕ですね」
不服そうに優司は言う。
「これでも、『玄武』の名を借りている身だ。その名に相応しい存在であるべきだとは心得ているさ」
つまらなそうな顔をされる。だが、ここで心を折るほど弱くはない。それで従者なんてやっていられない。あの日から、俺は『神守優司』に尽くすと……
「そろそろ、茶番は終わりにしませんか?」
「……は?」
あまりにも弱々しく、まるで本心を話すように突拍子のないことを言われるものだから、声が漏れた。
「いい加減、僕もつらいんですよ。そうやって嘘をつかれることが」
「どういうことだ」
「だって、そうでしょう? 初めからあなたは僕を見ていない。僕の中に眠る父の……真司の面影を見つめている。僕に惹かれているのではなく、ただ、僕の中にある父の要素に惹かれている。僕を気にかけてくれるのは、真司の息子だからでしょう? 僕が彼の息子でなければ、あなたはきっと、僕を見捨てていましたよ」
「そんなこと……!」
「ありますよ」
否定しようと声を上げれば、食い気味に、かつ冷静に否定を阻まれた。そして、
「みんな、そう。僕は代わりなんです。僕を必要としてくれる人は一人もいません」
悲しそうな顔で笑いながら優司は言う。
「そんな、はず、ない……ッ!」
幸希は弱々しく声を絞り出す。限界が来ているのだろうが、それでも心を保っているのだから、大したものだ。こんな良い友人がいる。それが俺の心の支えにもなってくれていた。
しかし、今の優司にその声は届かない。
「見えていましたよ、あなたの本心」
優司は自嘲するようにして笑っている。
「自覚がないなら見せてあげましょう。二度と『本気で僕を想っている』なんて、言わせないように」
目を逸らしたくても、そもそも視覚的なものでないために目を逸らせない。脳に流し込まれるその映像は、今でも鮮明に思い出せるあの日の思い出。それが、何を意味するのか。何を伝えようとしているのか。理解できてしまった。
俺は断罪を待つ囚人の心持ちでそこにいた。
自覚していないわけがない。
何故なら、俺はあの時、確かに__
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