第75話 最弱の頭首
しとしと、雨が降っている。秀治くんと共に向かった先は墓地。
いざ、花を手向けようとした時、
「神守の子とお見受けする」
背後から声をかけられ、僕は手を止めた。
「ここは死者が眠る場所です。ご用件は後ほど」
「待つと思うか?」
案の定、間髪入れずに命を狙われる。なんとか結界で墓石を守るが、その分、自分にダメージが入る。受け身はとったが左腹から出血。後で説教されるな、これは……。
「貴様が神守優司だな? 絶望の器……お前を手に入れれば、この世の全てが私のもの……」
あれ以来、このパターンの襲われ方が増えた。そういうタイプの敵は絶対的な力を望む猛者が多いため厄介だ。だからこそ、従者一人は必ず連れて歩くようになったのだが。
「勘弁してくださいよ……」
なんとか体を起こし、敵と対峙する。
「怒ると怖いんですよ、うちの従者は」
話し合いで解決できれば良いが、どうだろう、難しいか。
「ねぇ? 青龍」
僕に集中している隙に、背後に回った秀治くんが構えの姿勢を取る。
「斬って良いですか?」
「構いませんが、お話しができる程度にお願いします」
「了解」
「青龍……? お前がか?」
嘲笑にも似た言葉が降りかかる。確かに、代々波青家が青龍の加護を受けてきた。波青家の血を持つ者ではない彼は異質に映るだろう。だが
「所詮は半端者。神である私に勝て……」
全て言い終える前に、秀治くんの剣が敵の右頬を掠めた。
「……あ?」
右頬を斬られたことに気がついた時には、既に遅かった。そのまま、右腕を斬り落とす。驚きでバランスを崩したところを、蔦に絡めて地面へ拘束する。
「なっ!?」
安全の確認が取れたところで僕は彼に近寄る。
「申し訳ありませんが、僕はあなたのものにはなれません。先約がいますので」
にこりと笑って見せれば、彼はギリッと奥歯を噛み締める。
「このまま手を引いてくだされば良いのですが、まだやる気があるのなら放って置くことはできません。如何でしょう、そちらの意向は」
「タダで済むと思うか?」
「……左様ですか」
雨に濡れ、重みを含む髪をかき上げ
「光司」
僕は兄の名を呼んだ。
「あいよ〜」
ふわりと兄が姿を現す。
「冥界へ連れて行ってください。彼を、ゼロに戻しましょう」
「殺した方が早いよ?」
「殺したら消滅してしまうでしょう」
「相変わらず甘いねぇ」
「甘い」と言いながらも僕に協力してくれるのだから、兄も大概だと思う。
「待て、どうするつもりだ」
彼は、『冥界』と聞いて嫌な予感がしたのか、あからさまに狼狽える。
「どうって……さっき言っただろう? ゼロに戻す、だってさ。神の地位を剥奪させてもらう」
「そんなこと」
「できるんだよなぁ。冥界って、そういう場所でしょ? 大丈夫。神の地位を剥奪した後は、人間界に戻してあげる。殺しはしないさ」
「馬鹿な! 私は元より神の身! 成り上がり共とは違うのだぞ!?」
「あー、はいはい。見ればわかるって。だから人間に堕としてやるって言ってんの」
始めから神である者にとっては、最も屈辱な罰だと聞く。それもそうだ、今まで散々下に見てきた生物になるのだから。しかし
「新たな再生のチャンスです。死ぬよりは随分とマシでしょう?」
「というわけで、一緒に来てもらうよ〜」
兄は彼の拘束を外すことなく、そのまま地面に引き摺り込む。冥界に向かったのだろう。
「なにが最弱の頭首ですか」
秀治くんは鼻で笑いながら言う。
「最弱ですよ。僕はね」
「あなたたちが強いのでしょう?」と返せば、彼は照れ臭そうに笑いながら「おかげさまで」と話した。
「では、その傷、師匠に見せに行きますか」
「やめてください。波青さん、飛び起きちゃうでしょう。回復してから行きますよ」
「叩き起こせば良いですよ、あんな人。あの人だって大概です。無理して死んだのですから」
根に持つなぁ、秀治くん。絶対彼は怒らせないようにしよう。
僕らは改めて花を彼の墓に備えると、二人で故人に手を合わせた。
僕らの、忘れてはいけない、大切な人に。
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