第109話 羨望 part1

 私は人を観察するのが好きだ。というよりも、人を観察すること以外にやることが無く、必然的に好きなことになったと言った方が正しいのかもしれない。


 ただ長年人間観察を続けた成果か、その人の霊感や魂の形なんかを見れるという特殊能力を身に着けることが出来た。私はとても優秀な幽霊なのである……まぁその能力をどこで使うかと言えば霊感の強い子がいたら自主的に離れるという配慮にしか使えないのだが。


 ほへー……あれが晴翔君の妹ちゃんか……。


 私と同じ黒い髪をした少女を見ながら私は感嘆の声を漏らす。人形のように整った可愛らしい顔立ち、鈴を転がしたような綺麗な声。全てに置いて完璧と言わざるを得ない、そんな容姿を持った女の子。


 なるほどねぇ……そりゃあ晴翔君が溺愛するわけだよ。


 こんなに可愛い妹がいたら溺愛してしまうのも無理はない。おそらく私も彼女の姉だったらこれ見よがしに甘やかし、過保護になるに違いない。


 ただ──────


「……ねぇねぇ晴翔君、あの黒髪のめちゃくちゃ可愛い子が妹さん?」


「そうですよ、あの子が妹の鈴乃です」


「ほへ~ちょっと失礼かもだけどあんまり晴翔君と似てないね」


「俺と鈴は血が繋がってないんですよ。義理の兄妹ってやつです」


 晴翔君の言葉を聞き、脳内で渦巻いていた疑問が腑に落ちる。兄妹でどこかしらに差異があるのはよくあることだが、それでもどこかしらに面影や似ているなと感じる部分は必ず存在する。しかし、晴翔君と鈴乃ちゃんの場合それが全くと言って良いほど見つからなかったのだ。


「はぁ……なるほどなるほど。お姉さん天才だからなんとなく分かっちゃったよ」


 私はそう呟きながら自分の頭の中を整理していく。どうやら鈴乃ちゃんは普通の人と同じように私のことが全く見えないらしい。晴翔君の妹であればあるいはと思ったのだが、義理の妹ならば私が見えないのも仕方がない。


 というか私と会話できるのは晴翔君がかな~り非現実的な体験をした結果だから、もし仮に晴翔君と血が繋がっていたとしても話すのはおろか、私を見つけることも難しいのかもしれない。霊感がめちゃくちゃ強かったら話は別だけど。……でも鈴乃ちゃん的には晴翔君と血は繋がってない方が良いのかな?


 うーん、晴翔君の妹ちゃんとお喋りしてみたい気持ちはあったけど流石に例外がポンポン出るわけないかぁ。まぁ別に誰にも見向きされないなんてとっくの昔に慣れてるから良いけどさ。


「理子さん、ちょっと席外してもらえます?見られながらは恥ずかしいので」


「ん?ああ、私のことは気にせず着替えてよ。なるべく見ないようにするからさ」


 ぼーっとしながら考え事をしていると、晴翔君から声を掛けられる。そういえば今から晴翔君はテーブルに置かれてある燕尾服へと着替えるんだった。でもまぁ私はただの幽霊だし見られても気にならないと思うんだけどなぁ……。


「いや出てってもらえると嬉しいんですけど……」


「えぇ~?晴翔君は幽霊使いが荒いなぁ~」


 面倒だと口に出すも、恥ずかしさを滲ませながら苦笑いを浮かべる晴翔君を見て私の頬は自然と上方向に上がる。晴翔君はこういう所可愛いよねぇ。


「しょうがない、ここは初心な晴翔君のために席を外すとしよう。恥ずかしがりは治した方が将来色々とお得だぞ~?」


「分かりましたからはよ出てってください」


「はいはーい」


 お姉さんとしてアドバイスもとい晴翔君をからかった後私は言われたとおりに理科室の外へ出る。やはり人と話すのは楽しい。それもこうしてからかい甲斐のある人だとなおさらだ。


 ふふふ……練習中は流石にやらないけどある程度落ち着いたら後でからかってあげようかな。





 なんと続きは明日です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る