第65話 フリーズ
「皆ありがとう、おかげさまで無事新入生歓迎会を終えることが出来た。もうここで解散!……と言いたち所なのだが片付けという作業がまだ残っている。最後の一仕事、手早く片付けようか」
無事に新入生体験会は終了した。本番の仕事内容も体育館の入り口に立って軽い誘導作業をしたり、挨拶をしたりととても簡単なものを任された。難しい仕事を任されてミスを犯す、なんてことがなくて良かったと思うと同時にこれ俺呼ぶ必要あった?と疑問に思ってしまった。
お仕事はとても簡単だったし、無事に体験会を成功させることが出来たのも喜ばしいことだ。
ただ、ひたすらに気まずかった。
「二人ともお疲れ様、早速で悪いんだけど二人には受付の撤去作業をして欲しい。それが終わったら使われたスリッパを拭く作業をして欲しい。こっちの方はそんな入念にやらなくていいからね?」
「了解です」
「終わったら体育館に来てくれ。多分私の方の仕事も終わっていると思うし。まぁ終わってなかったら副会長辺りから指示を仰いでね。それじゃあよろしく頼むよ」
そう言って蓮先輩は体育館を後にする。生徒会長としての仕事がまだ残っているらしい。とても忙しそうな表情をしていた。
「それじゃあ行きますか茜先輩」
「そ、そうだな!早く終わらせてしまおう!」
とまぁ今日は終始茜先輩と二人で行動することが多かった。お手伝い組で分けられているのは重々理解しているのだが、それが仇となった。
例の事件……俺が壁ドンしちゃったあれですね、はい。あの事件が起こってから俺と茜先輩の間には常に気まずい空気が流れていた。目が合えばどちらからと言わず逸らしてしまうし、普段のように話しかけることにさえ気まずさを覚えてしまい、それはもうなんとも居た堪れなかった。
おまけにこの気まずさを解消しようとしているのか、茜先輩がいつもより元気になっている。そのせいで余計に調子が狂ってしまい、中々この気まずさの沼から抜け出すことが出来ない。正直早く帰りたい。
俺と茜先輩は受付の撤去作業を終え、スリッパを拭くという何とも単調な作業へと移る。こういうつまらない作業は雑談をメインにして、その後ろで作業をするというのが鉄板なのだが……。
「………」
まぁ、会話をすることなんて出来るはずないですよねぇ……。黙々と作業を進める茜先輩、こちらと会話をするつもりが全く見受けられない。先輩も気まずいんだろうなぁ……。
「「……あ」」
「す、すみません!」
「き、気にしないでくれたまえ!」
次のスリッパへと手を伸ばしたその時、茜先輩の手にぶつかってしまう。手と手がぶつかった瞬間、茜先輩と目が合うもあの時のことが思い出されたのかすぐに目を逸らされてしまう。……誰か助けてぇ!!
「ただいま~」
居た堪れない気持ちを我慢し、作業を終えた俺はいつもよりも重い体を動かし愛しのマイホームへと帰った。肉体的な疲労ももちろんだが、精神的な疲労がとてつもなくとてつもない。今すぐにでもベッドにダイブしてそのままごろごろしたい。
「お帰りお兄ちゃん。それとお疲れ様」
「ただいま、それとありがと鈴」
俺は手洗いうがいその他諸々を済ませ、自分の部屋のベッドに倒れこむ。
「あぁ~……疲れたぁ」
もうこのまま数時間は動きたくない。何もしたくない……。
「お兄ちゃん、冷たいココア入れたんだけど飲む?」
「ぜひ貰おうよ、ありがと鈴」
ノックの後にグラスを持った鈴乃が部屋へと入って来る。なんて気の利くいい子なの?もしかして天使だったりする?あ、天使だったか。
「は~……疲れた体に糖分が染み渡るぅ……」
「お疲れ様お兄ちゃん、そんなに大変だったの?」
「いやまぁ仕事自体はそんなに難しくなかったんだけど──────」
はっ……!危ない、つい茜先輩との出来事を口走っちゃうところだった。よくストップかかったな俺の喉と口。鈴に話したらそれはもう何が起こるか分からない。機嫌が悪くなるだけならまだましなのだが、それ以上のことが起こると正直対応できるか分からん。……ここは適当にはぐらかすか。
「だけど?」
「いや、やっぱり何でもない。忘れて」
「………」
あ、あれぇ~……?鈴乃さぁん?どうして笑顔のままフリーズしてるんですか?可愛いっちゃ可愛いけどなんかすんごい不気味ですよ?
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