第66話 生と死の狭間に垂れる糸
「お兄ちゃん、それで何があったの?」
「い、いや……ちょっと厄介事が起きちゃっただけよ?」
「うん、私それ聞きたいな」
食いつきがすごい。何とかうやむやにしたいのに鈴乃から絶対に逃さないぞという意思を感じる。ど、どうして……一体どこでスイッチ入っちゃったの?
「あー……ほら生徒会の内情みたいな感じだからさ、あんまり話すのも良くないかなぁって」
「大丈夫だよお兄ちゃん、私口固いし。私だけになら話してもいいと思うの」
「い、いやぁ……流石に……」
や、やばい……!ど、どうしたらいい!?どうしたらこの話題を終わらせられる?か、考えろ……何かしら方法はあるはずだ。
「ねぇお兄ちゃん」
「どうした?鈴」
「その厄介事ってもしかしなくても女の子絡みだよね?」
ニコニコと笑顔を浮かべたままきっぱりと言い放つ鈴乃に、俺の体はメデューサに睨まれたみたいに動かなくなる。
「お兄ちゃんなら私が誰にも言わない事分かってるはず。それなのに話してくれないのは私に知られたくない事だからだよね?」
よ、よくお分かりで……。
俺の体から冷や汗が流れ始める。まずい、このままだと鈴乃のペースに飲まれて抜け出せなくなってしまう。じ、迅速に手を打たないと詰んでしまう。というかもうほぼ詰みかけてる!!
「いやいやいや、そんなことないよ。ただこれはあまり話さない方がいい──────」
「嘘つかないでお兄ちゃん。絶対に女の子と何かあったよね?そうだよね?」
彼女の瞳から既に光は消えており、彼女の周りにあった禍々しいオーラはいつの間にか俺の体に絡みつくように広がっていた。
「な、無い無い無い無い!俺が女の子と何かあるはずないだろ?」
「絶対嘘。どうしてお兄ちゃんは嘘つくの?仏の顔は三度までかもしれないけど私はそんなに耐えれないよ?」
な、なんかいつもより圧凄くない!?めちゃくちゃ空気重たいんですけど!?
「それで?どこの誰と何があったの?生徒会の先輩?それとも同級生か後輩?それとも中3の子にいきなり告白でもされちゃった?」
「お、落ち着けって……あっ」
鈴はジリジリと距離を詰めながら質問を次々にぶつけてくる。後退りをして距離を保とうとするもここは一般的な大きさの部屋、すぐに壁に到達してしまい逃げ場が無くなってしまう。
「逃げようとするって事はやましいことがあったって事だよねお兄ちゃん」
鈴乃は逃がさないようにするためか俺の膝の上に座り、首に手を回してくる。側から見たら男女が部屋の隅でイチャイチャしているという何とも不思議な構図になっている事だろう。
「ふふふ……お兄ちゃん、もう逃げられないよ?」
「鈴!い、一旦落ち着こう!な?は、話せば分かるって」
「何言ってるのお兄ちゃん、今からそのお話をするんだよ?それに私はすごーく落ち着いてるよ。落ち着きがないのはお兄ちゃんの方、でしょ?」
うん、そうだったわ。って違う違う違う!思考を放棄するな!!割とマジでやばい状況だからこれ!!
全てにおいて正論を返された俺は危うく思考が止まりかけてしまう。こんな状況からでも入れる保険ってないんですか!?
「ないよお兄ちゃん」
「思考を読むな、思考を」
ニコッと笑いかけながらサラッと思考を読んできた妹に、俺の顔はスンッとなる。
「ほらお兄ちゃん、ゆっくり話し合おう?時間はたーっぷりあるんだから」
……はは、わりぃ俺死んだわ。
既に逃げ場を失い、思考まで読まれ、なす術の無い俺は心の中で白旗をあげる。き、切り替えろ……出来るだけ鈴乃の機嫌を損ねないようにことの顛末を伝える事に意識を集中させるん……だ?
「鈴、電話来てるぞー?」
「む……こんな時に……もしもし、大丈夫だよ。どうしたの椿?」
し、白川ぁ!お前ってやつはぁ……!!
終わったかと思えたその時、何と鈴乃のスマホからファンシーな音が流れ始めた。電話をかけた……いや、救いの糸を垂らしてくれたのは何と白川椿様だった。いや本当にありがとうございます。
鈴乃も白川からの電話を無視出来なかったのか、体をぐるりと回転させ俺のことを背もたれにして話し始める。い、生き延びた……。
「うん……うん、へぇーそうなんだ!……うん……えっいいの?」
とても楽しそうに電話をする鈴乃を見て俺はほっこりとした気持ちになる。俺の周りにあった黒いオーラもいつの間にか無くなっている。とても息がしやすい。
「うん、分かった。じゃあお兄ちゃんに伝えとくね。ありがと椿。うん、またねー」
電話を終えた鈴乃はこちらへと向きを変える。しかし先ほどのように抱きついてくる事はなく、それどころかいつもの鈴乃に戻っていた。
「ねぇお兄ちゃん!椿が一緒に海に行かないかだって!」
「海?」
「そう。なんでも海の近くに別荘があるらしくて、もしよかったらそこに遊びに行かない?とのことらしい!」
別荘かぁ……別荘!?え、白川って結構いいとこの生まれだったりするの?……って今はどうでもいいか。海か……うーん……。
「いやぁ流石に俺みたいな部外者はいない方がいいだろ?」
「その事についてだけどね?女の子二人で行くのは親が心配するから、お兄ちゃんとお兄ちゃんのお友達も一緒に来て欲しいって」
「あぁ……なるほどな。確かにちょっと心配だもんな。分かった、後で連絡してみるよ」
「うん、お願い。海、楽しみだねお兄ちゃん!」
「そうだな」
海かぁ……小学生の頃行った以来だなぁ。それに凄く夏っぽいし割と楽しみかも。
「あ、それとお兄ちゃん」
「ん?どうしたー?」
「さっきの続き、まだ終わってないからね?」
「………ちょ、ちょっと友達に行けるかどうか連絡して来る!!」
「あっ、お兄ちゃん!!」
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