第66.5話 茜の心
「はぁ〜……」
ごろりとベッドに横になり、エアコンの音が響き渡る部屋で大きくため息を吐く。
「ぬわぁ〜〜〜〜!!!」
大きなぬいぐるみに顔を埋めたまま、髪が乱れることを気にせずゴロゴロとのたうち回る。
わ、私……今日凄いこと言いそうになっちゃった……。
今日の出来事、具体的に言えば生徒指導室(物置)で起きた事がフラッシュバックする。あの瞬間、私は物語の世界に迷い込んでしまったのではないかと錯覚してしまうほど、頭がふわふわしていた。
壁ドンなんてただ大きな音を耳元で鳴らす害悪行為だと思っていたが、その考えは撤回しよう。正直めちゃくちゃドキドキした。小さじ一杯の恐怖が胸の高鳴りをあんなにも助長するとはゆめにも思わなかった。
ドクンドクン心臓が五月蝿くなる中、呼吸の音が聞こえるほどの至近距離で男の子……晴翔君と見つめ合って──────
「っ─────!!」
ぎゅぅっとぬいぐるみを抱きしめ、許容範囲を超えた羞恥心を発散させる。声にならない悲鳴が心の中で反響してとてもやかましい。
……も、もしあの時。自分のこの気持ちが言葉になっていたらどうなってたんだろうな……。
ノートが私の頭を襲ったとき、少しホッとした。今のこの関係が崩れるのが怖い、断られるのが怖いという数多の恐怖から解放されたからだ。しかし、それと同時にもしあの時伝えれたら、一歩踏み出せてたらという後悔に近い感情がこびりついて離れてくれない。
「ぐぬぬ……なんで私がこんな苦しい思いをしなくちゃいけないんだよぉ……って蓮からだ」
ベッドで1人唸っていると蓮から電話がかかって来る。
「もしもし、どうしたの蓮」
「もしもし茜、今日は手伝ってくれてありがとね」
「どういたしまして」
「それで聞きたいことがあるんだけど」
「何〜?」
「晴翔君と何かあった?」
「は!?」
な、何故今ここで晴翔君の名前が出て来るのさ!?と口に出そうになった言葉を無理やり飲み込む。
「その様子だと何かあったみたいだね。ねぇ何があったの?キスまでした?」
「んなわけあるかい!というか晴翔君とは何もなかったよ!」
「またまたぁ。2人の変化に気付かないほど鈍くはないからねぇ。物置で何かあったでしょ?まぁ?人気のない部屋で?男女2人きりだもんねぇ?」
にまにまと笑っている蓮の顔がありありと浮かんでくる。隣にいたらペシペシと肩を叩いてやれるのに……。
「これは私のサポートのおかげかなぁ?」
「う、うるさい!」
「キューピットにその態度は失礼じゃない?せっかく晴翔君と2人きりにしてあげたのに。本当は晴翔君を馬車馬の如く使おうと思ってたんだぞー?」
「ぐぬぬ……うるさいなぁ、ありがとって言えばいいんでしょ!手助けしてくれてありがと蓮!!」
「はいどういたしまして」
蓮はやけくそ気味に言い放った感謝の言葉を正面から受け止める。ぐぬぬぬぬぬ……一発殴りたい。
「でもとりあえず仲が進展したみたいで良かったよ。あんまり時間残ってないんだから早めに告っちゃいな?」
「うるさいなぁ……分かってるよ」
「そ、ならいいや。じゃあ改めて今日はありがと、またね」
「うん、ばいばい」
通話を終えた私は再びベッドに倒れ込む。遅かれ早かれこの気持ちとは決着を付けないといけない。もし……もし叶うならこの想いが────────
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