第40話 次回、文芸部爆発

 望月青葉、彼女からはどう言うわけか嫌われている。彼女とまともに話をしたのは両手、もしくは片手で事足りるほどの数だけだ。


 俺は基本的に人に対して苦手意識を持たない様にしている。少しでも苦手だと感じてしまうと、それが僅かでも振る舞いに悪影響を及ぼすからだ。前世の経験を元に周囲の人には優しくしよう、出来るだけ人助けをしようと考えている俺にとっては邪魔でしかない。


 が、いくら第二の人生だからといっても俺は人間だ。苦手意識を持つ相手は多少なりともいる。そのうちの1人が、このクール眼鏡っ子の青葉さんなのだが──────

 

 まぁじで何で嫌われてるんだろうなぁ……。


 本当に理由が分からない。彼女に対して迷惑な行為をしたつもりも無ければ記憶もない。唯一考えられるのは数回の会話の中で気に障るようなことを言ってしまったかもしれないということだが……俺は基本仲の良い人、ある程度の関係を築いた人以外には当たり障りのない言葉を使っているためその線も薄い。


 明確な原因が分かれば謝罪して、嫌われている状態から何にも思われていないという文字通りフラットな関係にまで戻すことが出来るんだけどなぁ……。


「それじゃあ一通り自己紹介が終わったということで、今日は中々集まらない部員との交流を楽しもうじゃないか、乾杯!」


「「「「「乾杯」」」」」


「んっ…んっ……ぷは~」


「おっさん臭いですよ先輩」


 仕事終わりにビールを飲むサラリーマンの如くオレンジジュースを喉へと流し込む先輩に俺はジト目を向ける。いつもみたいに人がいなければ特にツッコむことは無かったのだがさすがに後輩がいる前でそれはどうなんだとつい口が動いてしまった。


「細かいことはいいじゃないか晴翔君、それにほら一年生ズも気にせずもっちーに話しかけているみたいだし」


 先輩の視線の先には一年生の子達と楽し気に会話をしている望月さんの姿があった。


「今年の一年生全員、もっちーが連れてきてくれたんだよ」


「……そうなんですね」


「むっ、何だいその部長という肩書を持ったただの置物を見るような眼は」


「そんな目で先輩を見るわけないじゃないですか」


「棒読みじゃなかったらいいセリフなんだけどね」


 てっきり茜先輩が勧誘したと勝手に思っていたが、全て副部長様のお手柄らしい。先輩、こういう所で活躍しないと本当にただの置物になってそのうち窓際社員ならぬ窓際部長として皆から敬遠されるようになるんですよ。


「……失礼なことを考えていないかい?」


「キノセイデスヨ」


 妙に勘の鋭い先輩を横目に俺は望月御一行へばれない様に視線を向ける。なんだろうこの派閥争いみたいな別れ方は、まるでどこかの国の転換点を表しているみたいだ。まぁもしそうなった場合追いやられるのは俺と茜先輩の方なのは明白な運命なのだが……こんな少人数の部活でギスギスするとかマジでやめてほしい。


 あっ、やべ。


 つい望月一派を見過ぎてしまい、派閥のリーダーと目が合ってしまった。


 きっ!


 こちらの視線に気が付くとこれでもかというほどの敵意を向けられ、さすがの俺でも苦笑いが零れ出てしまう。そ、そんなあからさまに敵意をむき出しにすることあります……?


「……ねぇ、晴翔君。もっちーに何かした?あの子一瞬すんごい目で君の事睨んでたよ」


 幸運なことに一年生達には気づかれていないようだが茜先輩は心配するように俺に耳打ちする。


「俺、望月さんに何故か嫌われてるんですよねぇ」


「ちなみに原因は?」


「分かりません」


「生理的に晴翔君を受け付けなかったか……」


「それを本人の前で言わないでください。流石の俺でも傷つきますよ」


「冗談冗談。まぁあんまり大事にならないようにねー?私が引退する前に文芸部が爆発四散するとか最悪だからさぁ?」


「分かってますよ、俺も自ら絡みにいったりしないんで」


「……また睨まれてたけどね」


「え、まじすか」


 俺の見ていないうちにどうやらまた睨まれていたらしい。ごめん先輩、やっぱ文芸部爆発するかも。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る