第60話 杉崎蓮
蓮先輩と出会ったのは去年の春先の事だ。中学でもやっていたから、そして自然と人の役に立つようなことができるからという理由で生徒会に所属した俺は、どういう訳かこの蓮先輩に気に入られた。とは言ってもなんとなくの予想はついている。
その理由は俺が他の生徒と違ってめちゃくちゃ働いていたからだ。
「晴翔君、これも頼むよ」
「晴翔君、それが終わったらこれを手伝ってくれ」
「晴翔君、次はこっちだ」
とまぁ蓮先輩の手となり足となり働いた結果、彼女の右腕のように扱われてしまったのです。いやまぁ生徒会として仕事をすることのがつまらなかった言えば嘘になるのだが、如何せん忙しすぎた。
というかこの蓮先輩のせいで忙しくなったと言っても過言ではない。「それ俺みたいな一般役員がやる仕事じゃないですよね?」という仕事をバンバン押し付けてくるのだ。誇張なしであの頃の俺は人の3倍以上は働いていたと思う。これが社畜ならぬ学畜かと自虐していたのはいい思い出。
ただ先ほども言ったように生徒会の仕事自体はとても面白かったし、蓮先輩との仲は割と良好である。じゃあなんで生徒会をやめたのかというと、いくつか理由がある。
一つ目は単純に自分の能力に限界を感じたから。仕事量が多いのは確かだったけど、それを抜きにしても他の生徒と比べたらまだまだだなと思う所が多々あり、迷惑をかけるくらいならいっそ……といった感じである。
二つ目は生徒会長をやらされそうになったからである。3年生が引退し、連先輩が生徒会長になった後、妙に生徒会長としての振舞い方や仕事の内容を教えてくるようになった。
一体どうしてそんなことをするのかと聞いてみたところ「だって来年は晴翔君に生徒会長やってもらうつもりだから」と満面の笑みで言われたのを今でも覚えている。俺に生徒会長?無理に決まってるじゃないですか。
最後は鈴乃がこの学校に入学してくると分かったからだ。生徒会に入っていたら鈴乃との時間が減ってしまう、そうすると何が起こるか。鈴乃の機嫌があまりよろしくない方向へと傾いてしまう。それは出来るだけ避けたいなぁと思った俺は生徒会を辞めた。
後まぁ単純に高校3年になってしまえば鈴乃と一緒に居る時間は確実に減るし、高校を卒業したら長い間鈴乃と会えなくなる。であれば最後の思い出、とまでは行かないが出来るだけ一緒に居た方が良いなと思ったからというのもある。
これらの理由で生徒会を辞めることになったのだが……まぁ大変だった。
「晴翔君、生徒会長はやらなくていいから生徒会に残ってくれないかい?ほら、今度ご飯奢るからさ」
「晴翔君は絶対生徒会向きの人間だと思うよ私は。どうだい?今なら茜を君にあげるから残る気は無いかい?ああ見えて意外とかわいいところが多いんだよ?茜は」
などと俺を引き留めようとする蓮先輩を振り切るのは骨が折れた。まさか親友である茜先輩を売り物にするとは思いもしませんでした。あ、もちろん丁重にお断りしました。
何とか蓮先輩の引き留めを振り切り、生徒会を辞めることに成功した俺だったがその後も面倒なことは続いた……というか今もまだ続いている。
「やぁ晴翔君」
「あ、どうも蓮先輩」
「どうだい?生徒会に戻る気は無いかい?私たちはいつでも君のことを歓迎するよ?」
という風に、顔を合わせる度に生徒会の勧誘をしてくるのだ。もう一度言おう、顔を合わせる度にだ。廊下ですれ違った時、登下校でたまたま鉢合わせた時と何回「生徒会に戻らない?」と言われたか覚えていないくらいには声を掛けられた。正直怖いです。
今も──────
「まぁ何が怖いかは一旦置いておいて……」
「うわぁ!」
蓮先輩はぐいっと茜先輩を抱き寄せ、頭の上に顎を乗せる。身長差があるせいで同級生というよりも姉妹、ないしは仲のいい先輩後輩のように見えてしまう。
「どう?生徒会に戻るつもりはない?今なら茜を好きにする権利をプレゼントするよ?」
「なっ!?何勝手に人のことを売っているのさ蓮!私は誰の物にもならないぞ!?」
「またまた強がっちゃってぇ。うりうりぃ」
「ひぅ!?変なところ触るな!」
目の前で乳繰り合う先輩たちを見て仲が良いんだなぁと微笑ましい気持ちになる。
「何度も言ってますけど生徒会に戻るつもりはないですし、茜先輩も間に合ってます」
「あーあ、私たち振られちゃったね」
「何で私まで巻き込まれてるのさ!それとそろそろ……放してっ」
「あぁ……私は茜にまで振られてしまったよ。すごく悲しいなぁ……しくしく」
「なぁにがしくしくだ、微塵もそんなこと思ってないくせに」
「そんなことはないよ、可愛い親友と後輩二人に振られてしまったんだよ?さすがの私でも傷つくさ」
ニコニコと微笑みを浮かべながら言う蓮先輩からは、傷ついた様子が全く見受けられない。絶対傷ついたとか思ってないんだろうなぁこの人。
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