第61話 先輩からのお誘い

「そういえば晴翔君、この後時間あるかい?」


「家に帰るだけですね」


「じゃあ暇ということでいいね」


 何だろうすごく嫌な予感がする。何か厄介ごとに巻き込まれるような、面倒なことを押し付けられるようなそんな気がして仕方がない。


「いや、やっぱり用事があるのを思い出し──────」


「実はこの後茜と一緒にお茶しに行く予定があるんだ。もし良かったら晴翔君も一緒にどうだい?」


「え?私聞いてないんだけど?」


「うん、だって今決めたからね」


「えぇ……まぁ特に用事とかないから良いけど」


 驚いたかと思えばすぐに了承するところから仲の良さを感じられる。茜先輩って蓮先輩と一緒に居ると振り回される側になるんだよなぁ……。普段の茜先輩とは違って普通の女の子に戻った感じがする。


「で?晴翔君も用事ないんだよね?」


「いや、まぁ……」


「仲のいい先輩からのお誘いだよ?お茶を飲むくらい、付き合ってくれても良いと思うんだよねぇ」


 先輩の意地の悪さが視線や表情から読み取れる。ここで断ればまるで俺が先輩のお誘いを断った薄情者みたいになってしまう。そんな言い方をされたら断りづらいだろうが。


「はぁ……是非お供させていただきます」


「うん、それじゃあ行こうか」


 





 先輩に連れられてやってきたのは学校の近くにあるファミレスだ。お茶をするとかいうからどこかのカフェに連れられるのかと思ったがそんなことはないらしい。まぁこちらの方が私的には肩肘を張らなくていいから助かるのだが。


「晴翔君、ここは私が奢るよ」


「え、いいんですか?」


「うん、付き合って貰ってるわけだしね。それに後輩にはかっこいいところを見せたいだろう?」


 れ、蓮先輩……!!いや、待て。少し冷静になれ俺。蓮先輩が付き合って貰ったからという理由で俺に何かを奢るだろうか?これには何かしらの裏があるのではないだろうか?だってあの蓮先輩だぞ?絶対に何かあるに違いない。


「いや、良いですよ。自分の分は自分で払います」


「気にしないでくれ。久しぶりにこうしてゆっくり喋るんだ、先輩に見栄とやらを張らせてくれないか?」


「え?蓮奢ってくれるの?」


「茜の分は払わないよ」


「私も一応連れてこられたんですけどぉ……まぁいいや」


 う、ううむ……蓮先輩に裏なんて無いのか?ここは大人しく奢られた方がいいのか?……でも何かありそうな気がしてならないんだよなぁ。でも先輩の厚意を無下にするのもあれだし……まぁ今回は多分何もないはずだ、そうに違いない。というかそう言うことにしよう。


「じゃあお言葉に甘えさせてもらいます」


「うん、遠慮せず選んでね」


 俺は蓮先輩の厚意に甘え、チョコレートパフェとコーヒーを頼んだ。少し頼み過ぎたかなぁという思いもあったが、遠慮しないでと言われたら遠慮しないのが俺の流儀。社交辞令?そんなものは知らん。


「今更な気もするけど晴翔君はどうして学校に来ていたんだい?文芸部以外に部活には入っていないはずだよね?」


「ああ……実は友人の補講に付き合わされまして……」


「ははは……まぁ晴翔君らしい理由だね。前から思っていたけど晴翔君って押しに弱いよね」


「い、否めないっすね」


 実際嫌なことでも強くお願いされたら断れない気がするし、心当たりがかなりある。人助けになるから別にそんなに苦じゃないけど、社会に出たらこういうのは少し控えた方が良いかもなぁ……まぁまだ先のことだからそう深く考えなくても良いんだろうけど。


「お待たせいたしましたー。ごゆっくりどうぞー」


 それから少しの間雑談に花を咲かせていると注文したものが届いた。平日ということもあってか意外と早く料理がやってきた。


「それじゃあいただきます」


「うわぁ……大分甘そうだね」


「普通だと思いますけどね」


 茜先輩が俺のパフェを見ながらそう呟く。確かに甘いがパフェとしては普通の部類だと思うけどなぁ。うん、丁度いい甘さだと思います。


 蓮先輩はサンドイッチと紅茶、茜先輩はフライドポテトとメロンソーダを頼み、この中で唯一デザート系の物を食べていて場違い感がすごい。


「そうだ晴翔君、新入生体験会については覚えているかい?」


「はい、確か来週あたりにやるんでしたっけ?」


「うん、今年も去年とあまり変更点は無く実施される予定だ」


「そうなんですね」


 文字通り中学3年生の子達に高校って一体どう居場所なの?というのを説明するイベントだ。前回の新入生歓迎会はこの蓮先輩に色々と走り回されたのを覚えている。いやぁ大変でした。


「そこで晴翔君に相談……もといお願いなんだが、お手伝いとして雇われてくれないかい?」


「えっ。生徒会ってそこそこ人いましたよね?」


「今年の体験会に参加する人数が去年よりも多いんだ。それに仕事の内容を覚えている人は多い方が良いだろう?」


「それはまぁ……」


「それにね?晴翔君。何かをしてもらったら何かをお返しするというのが礼儀なんじゃないかなって私思うんだよね」


 ニコニコと微笑みながらこちらの顔を覗く蓮先輩を見て、スプーンを持っていた俺の手がピタリと止まる。……やっぱり裏あったああああああ!!!


 今回は何もないと思い込んでいたがそんなことは無かったらしい。汚い、流石生徒会長汚い。こうして餌で釣って人のことをこき扱おうってか?あわよくば生徒会に連れ戻そうってか?俺がそんな先輩の提案に乗るわけがないだろう!いくら奢られたからって俺は断──────


「それ、結構高かったよね?」


「はいお手伝いさせていただきます」


「うん、頼りにしてるよ」


 ………やっぱり今回もだめだったよ。

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