第62話 ちょろい

「ごめん、ちょっとお手洗い」


「いってらっしゃーい」


 茜先輩が席を立ち、蓮先輩と二人きりになる。だからと言って気まずいというわけでもないし、むしろ俺的にはいいタイミングだなと考えている。茜先輩がいない間に新入生歓迎会について軽く話をしておきたかったからだ。


「ねぇ晴翔君」


「はい、なんですか?」


 話を切り出そうとした矢先、蓮先輩から話を振られる。


「つかぬ事を聞くんだけど晴翔君は茜についてどう思ってる?」


「はい?」


 突拍子のない話題に俺は首を傾げる。そんな男子中高生の恋バナみたいなことを言ってどうしたんですか蓮先輩、暑さのせいで頭おかしくなっちゃいました?


「いや、単純に気になっただけだよ。それで?茜のことをどう思っているんだい?」


「どうって……うーん、そうですね。面白い先輩……ですかね?」


「……面白い先輩かぁ」


「はい、一緒に居て楽しいし、面白いなぁって思ってます」


「それ以外に何かないの?」


「そうですねぇ……ちょっとおじさん臭いところあるのでそこは直した方が良いと思いますね。元が可愛いのでちょっともったいないなぁとは思います」


「ふぅん……可愛いとは思ってるんだ」


「まぁ普通にしてればモテそうだなとは思いますね」


「なるほどなるほど……」


 何をそんなに頷いてるんだ蓮先輩。俺が茜先輩をどう思ってるかとかなんで聞いてきたんだろ。……まさか蓮先輩と茜先輩ってそう言う関係だったりするの!?え……そうなの!?……これからは茜先輩との距離感を見直す必要があるかもしれないな。


「ただいまー、何の話してたの?」


「ん?茜は可愛いねって話してた」


「確かに私は可愛いけどそう言う冗談はやめた方がいいと思うぞ〜」


「冗談じゃないよ。ね、晴翔くん?」


「まぁ……そうっすね」


 確かにその話はしたが茜先輩が可愛いと言うことについて語っていたわけではない為、どう言う反応をしたらいいか困る。嘘ではないがそうじゃない感がすごい。


「ほら、晴翔君の反応的に揶揄ってるじゃないか」


「本当に話してたんだけどね。あ、それと茜」


「何?」


「茜も新入生歓迎会のお手伝いさんになってくれない?」


「え、やだ」


 茜先輩は蓮先輩のお願いを素早く断る。突拍子のないお願いに俺もいきなり何言い出してるんだこの人はと思ってしまった。やっぱり暑さのせいで頭のネジが数本溶けたりしてません?


「ほら、人手は多い方がいいだろう?安心してくれ、簡単な仕事しかさせないからさ」


「それ私である必要なくない?私以外の人にお願いした方がいいと思うんだけど」


「親友だからこそお願いしてるんだよ。他の人に頼むのは申し訳なさが残るし、それに面倒だからね」


「親友なら面倒事を押し付けてもいいってことにはならないんだけど?」


「それに茜は優秀だからね。他の生徒よりもテキパキ動けるし、可愛いし、頭もいいし、思慮深い。あかねに任せれば他の人の数倍は早く仕事が片付くと思ったんだ」


「……ま、まぁ?確かに私にかかれば生徒会の仕事もちゃちゃっと終わらせられるとは思うけど?」


 蓮先輩に褒められ満更でもないご様子の茜先輩。これもう少ししたら仕事引き受けそう。……流れ変わったな。


「私の人生唯一の親友たる茜になら安心して任せられるし、生徒会としても優秀な茜に仕事を手伝ってもらえると非常に助かる。茜、どうか仕事を手伝ってくれないかな?」


「……しょ、しょうがないなぁ?蓮の親友だしぃ?それに私超仕事出来ちゃうスーパー美少女だからぁ?手伝うくらいなら全然無しではないかなぁ?」


「ありがと茜、やっぱり茜は優しいし頼りになるね」


「ふふん、まぁ茜ちゃんですからね」


 ちょ、ちょろい……。あまりにもちょろすぎる。そんな褒められただけで仕事を引き受けちゃうとか、将来大変なことになるよ?おじさんちょっと心配だよ?


 蓮先輩に口説き落とされてしまった茜先輩に俺は苦笑いを浮かべる。こんなにもあっけなく落ちてしまう茜先輩もだが、親友の弱いところを悪用する蓮先輩もちょっとどうかとは思う。さすが生徒会長汚い。


「それにね?茜」


 蓮先輩が隣に座っている茜先輩の耳元で何かを囁き始める。


「ばっ!?何を言ってるのさ蓮は!?べ、別に私は……」


 何を言われたのかは分からないが、茜先輩が恥ずかしそうに口元をもごもごさせる。蓮先輩って人の心動かすの上手いよなぁ……。あんな悪戯な笑顔浮かべてなかったら完璧な生徒会長なのに。


「と言うわけで二人ともお手伝い頼むよ」


「了解っす」


「う、うん……」


 茜先輩はちらりと俺のことを見てから、伏目がちに頷く。蓮先輩は一体何を囁いたんですかね?

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