第63話 お手伝……い?
「それじゃあ今から準備をしていく訳だけど、まず資料を配るね」
新入生歓迎会の前日、中学3年生のお客さんたちをお迎えするべく生徒会とプラスアルファ、もとい俺と茜先輩が生徒会室に集まっていた。先輩や同級生の人からは「あぁ……蓮先輩に連れてこられたのね」という納得の表情をされ、居心地は可もなく不可もない絶妙なものだった。
「蓮先輩、一部足りないんですけど」
「そうか……晴翔君、すまないが茜と一緒に見てくれるか」
「了解しました」
連先輩にしては珍しいミスだが仕方がないか。猿も木から落ちれば犬も棒にあたる時代だし、蓮先輩のミスなんて木から落ちた猿に比べたら些細なものだ。
「ん……晴翔君ちょっと近くないかい?もう少し距離を取って欲しいんだけど……」
茜先輩が小さな声で抗議を入れてくる。
「すみません、でも今資料字が少し小さくて見づらいんですよね」
「それは確かにそうだけど……流石にこの距離感はちょっと……」
内容が多いからか、この資料に書かれている文字はかなり小さい。そのせいもあってか俺とあかねん先輩は今、肩と肩がぶつかるくらいの距離感にいる。申し訳ないなと思うが、流石に説明を聞かずに作業するのは周りの人に迷惑でしかない。
ただまぁ、いくら仲のいい先輩だと言えどこんな至近距離に男がいたらそりゃ嫌だよな。それに後で蓮先輩になんか言われる可能性もあるし……出来るだけ記憶に留めれるよう耳の穴かっぽじりますかぁ。
「先輩、これどうぞ。自分後で見るんで先軽く呼んでおいてください」
「ふぇ?……あ、ああうん。ありがとう晴翔君」
蓮先輩も前回とあまり変わらないって言ってたし、後でざっと読むくらいでなんとかなるだろう。それにいくら元生徒会だからと言ってそんな難しい内容の仕事は投げてこないだろう……多分。
「説明は以上だ。何か質問はあるかな?……無いみたいだね。それじゃあ早速準備に取り掛かろうか」
蓮先輩の一声で生徒会の人達が動き始める。どの作業をするかとかもう割り振られてるっぽいな。説明されてないのは俺達だけっぽいし。これは本当に雑用で呼ばれたくさいな。
「茜先輩、読み終わりましたか?」
「大体はね。というか皆どっか行っちゃったけど私たちはどうすればいいんだろう」
「さぁ?多分蓮先輩から直接指示がありますよ」
「晴翔君と茜には受付の席のセッティングとちょっとした雑用を任せたいんだけど……晴翔君、資料読んでなかったのかい?」
「諸々の事情により読んでないっすね。今からざっと目を通すので少し待ってくれると嬉しいです」
「茜、ちょっと」
「は、はい……」
「これは一体どういう事?無理やりにでも距離が縮まるチャンスだったのに。ああいう所でアピールしないでどうするのさ?」
「そ、そんなこと言ったって……無理なものは無理だし!それに私は別に晴翔君のこと……」
首根っこを掴まれ部屋の端に連れていかれた茜先輩を横目でちらりと見る。何かこそこそと話しているようだがその内容までは聞き取ることが出来ない。怒られてるのならちょっと申し訳ないかも。
「先輩ざっと読み終わりました」
「そうか、それなら早速だけど受付のセッティングを頼む。資料にも書いてるけど……晴翔君ならやり方分かるよね?」
「まぁ大体は覚えてます」
「それなら安心だ。セッティングが終わったら体育館に来てくれ。多分私はそこにいるから」
「分かりました。それじゃあ茜先輩、行きましょうか」
「あ、ああ……」
そこから生徒会の人達とは別れて準備を開始する。内容はとても簡単、玄関に長テーブルと椅子を持っていき、後は色々それっぽく仕上げるだけ。後はスリッパが大量に入った箱を持ってくれば終了という2人でやればあっという間に終わりそうな仕事だ。
「よいしょっと……」
「晴翔君、私も持つの手伝うよ?」
「大丈夫ですよ、それに先輩には椅子持って貰ってるじゃないですか」
現在俺は折り畳み式の長机を一人で抱えている。確かに重いが、俺がテーブルを、先輩には椅子を持ってもらった方が効率的だ。後は単純に女の子に重い物を持たせるのはちょっとあれなきがしたからというのもある。
「晴翔君って結構力持ちなんだね」
「力持ちの人はもっと楽々運びますよ多分。俺は人並みです……っしょっと。それじゃあセッティング始めますか」
「うむ、これならすぐに終わりそうだね」
先輩の言う通り、作業は割と早く終わった。一応最終チェックをして問題ないことを確認した俺と茜先輩は蓮先輩の元へと向かう。
「早いね。仕事が早いのはとてもいいことだ。それじゃあ早速で悪いんだが次は生徒指導室で張り紙とその他諸々を持ってきて欲しいんだ。よろしく頼むよ」
「ちなみに蓮先輩、生徒指導室って掃除してます?」
「……よろしく頼むよ」
「ちょお!?目反らさないでくださいよ!!」
絶対汚いし超散らかってるよ……。もうその光景がありありと浮かんでくるもん。
「生徒指導室……?」
「ああ、茜は知らないよね。実は生徒指導室は生徒会専用の物置部屋になってるんだよ」
「へ~そうなんだ」
「そう、こういうイベントで使うものとかは大体そこに放り込まれ……じゃなくてしまわれているんだよ」
おい、今放り込まれてるって言おうとしただろ。
「あ、そうだ晴翔君!思いのほか作業が進んでいるからついでに生徒指導室の整理整頓をしてくれないかな?」
「えぇ……まぁ軽く整理するくらいならいいですけど」
「助かるよ、それじゃあお願いね」
「うっす」
ま、まさか物置の掃除を任されるとは。新入生歓迎会のお手伝いどこ行ったよ……。
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