第2話 目を覚ますと
「っ!?」
俺は大きく目を見開く。まるで長い夢を見ていたかのようなそんな気分だ。一体俺はあの後どうなってしまったのだろうか。それに座ってる状態だけど……ここって──────
「ん?どうした晴翔。緊張でもしてるのか?」
「─────は……?」
俺は人間の限界と言えるレベルまで目を開く。脳みそが、体を構成する細胞の一つ一つが今のこの光景が現実なのか、はたまた夢の類なのかを認識できずに混乱している。
「父……さん……?」
「どうした
俺の顔を心配そうにのぞき込んでくるのは俺の父親である
偽物……?いや、本物だ。顔、喋り方、空気感や匂いなど全てにおいて俺の記憶の父親と合致する。正真正銘、本物の父親だ。
……というか待てよ?さっきの俺の声なんか変じゃなかったか?
十数年前の父親が目の前にいるというだけで既に頭は一杯だというのに、すぐさま新しい問題点が生まれてしまい、俺の脳みそは思考を放棄する一歩手前まで来ている。
ふと俺は部屋の隅に設置されているテレビの画面に目を移す。
は……なんだよこれ……!!
真っ黒な画面には清潔感のある服装に身を包んだ父親の姿と、パーカーを着た少年の姿が電源のついていないテレビの画面に映し出された。そう……
俺は子供になっていたのである。
「晴翔……?晴翔……!?」
「へ?」
「大丈夫か?さっきからずっとぼーっとしてるけど……」
「あ、ああ…うん、大丈夫」
「緊張でもしてるのか?まぁ無理もない、何せ新しいお母さんと妹が家に来るんだからな」
──────っすぅ………。
「ねぇ……父さん」
「ん?どうした晴翔?」
「今僕9才だよね?」
「?…ああ、そういうことか。そうだぞ、晴翔は今9歳で今から来る鈴乃ちゃんは1個下の8才だ。突然で難しいことだとは思うがこれからはお兄ちゃんとしてよろしく頼むぞ」
「う、うん……頑張るよ、父さん」
体全身に鳥肌が走る。どういうことだ?俺は死んだはずだよな?俺はもう既に死んでいた、そして神様のご厚意なのか自分の最後を見届けることが出来た。それなのに俺は今、あの時の────新しい家族が家に来る時の俺になっている。
俺が生きたあの25年間はただの夢だったのか?それとも今眼前に広がっている光景の方が夢なのか?
頭がぐるぐるする。今体から伝わってくる五感は非常に現実味を帯びている。これが偽物だ、幻だと言われたらそんなはずはないと叫びながら否定するくらいには現実的だ。
一体どういうことなんだ……タイムリープってやつか?いや、それはあまりにも非現実的すぎる。じゃあこれは何なんだよ!?誰か説明してくれよ!!
科学だけでは説明しきれない事象に俺は叫び出したい気持ちを何とか堪える。でももし、もしだ。これがタイムリープなのだとしたら、あの時の俺だとしたら──────
ピンポーン
「おっ、来たみたいただな。いくぞ、晴翔」
「う、うん……」
俺は少し浮ついた足取りの父親の後ろをついていく。自分の心臓が高鳴る。変な汗が額や体のあちこちから流れる。
ドッドッドッと心臓の音がうるさい。まるで心臓が体内から耳の横へと移動したのではないかと疑ってしまうほどに俺の心臓は大きく、そして早く脈打っていた。
「お久しぶりです。
あぁ……あの時の光景だ。
自分の過去の記憶が一瞬のうちに再生されていく。背中まで延びた黒い髪を携えてにこやかにほほ笑む女性とその後ろに隠れる小さな影。その正体は堂々とした態度の女性とは異なり、ひどく緊張している黒髪ボブの少女。
「お久しぶりです拓人さん、晴翔君。ほら鈴乃、ちゃんと挨拶して?」
葵さんの陰に隠れてこちらをちらりと覗いては隠れるを繰り返している鈴乃に、葵さんは背中を優しくポンポン叩き、挨拶を促す。
「…は、はじめ…まして……鈴乃です…よろしく……お願いします…」
「はじめましてじゃないわよ鈴乃」
葵さんに訂正され、鈴乃は顔を赤らめて引っ付き虫の様に葵さんの足にくっついてしまう。
「久しぶりだね鈴乃ちゃん、これからよろしくね。ほら、晴翔も挨拶しなさい」
体が固まる。俺が死ぬ前に後悔したことが、俺が人生の中で最もひどい過ちを犯し始めた日に俺は再び立っている。神様の悪戯か、あるいは贈り物なのか。ただもし神様に一言だけ伝えることが出来るとしたら真っ先にこう言うだろう。ありがとうございます、と。
今体験しているこれが、目に映るすべてが、そしてこの世界が嘘か誠か分からない。それでも────
「これからよろしくお願いします葵さん、鈴乃ちゃん」
俺は絶対に二人を大切にしよう。本当の家族として接しよう。そして新しく出来た妹、前世でひどい仕打ちをしてしまった彼女のことを超が付くほど甘やかそう。
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