第113話 伝説的言い伝え
「まぁ一緒に回るかどうかは後で決めるとして」
「後でって……文化祭明日ですよ?」と言おうか迷ったがすんでのところで俺の口を止めることに成功する。どうせここで俺が何かを言えば「誰のせいだと思ってるの?」とかなんとか言われる可能性がある。俺は空気を読める男、ここで急ブレーキを踏むことなど造作もないのだ。
「二人はキャンプファイヤーの事聞いた?」
「ああ、部活の奴がなんか言ってたな」
「何それ知らないんだけど」
聞き馴染みのない言葉に俺は首を傾げる。俺一人だけハブられている感じがして悲しくなったのはここだけのお話。
「昔はこの学校文化祭最終日にキャンプファイヤーの周りでフォークダンスを踊ってたらしいの。ここ最近は色々な理由でやってなかったんだけど今年の生徒会が頑張ったみたいで、今年からキャンプファイヤー復活するんだって」
「ほへ~」
文化祭最終日、いわゆる後夜祭という奴だろう。楽しかった文化祭を締めるのにはうってつけのイベントなのは明白だ。生徒会……蓮先輩が色々と計画したのだろう。流石蓮先輩、仕事のできる人だ。
というか去年生徒会で仕事してたけどキャンプファイヤーのこと全く知らなかったな……。いやまぁ知ろうとしなかったからしょうがないところはあるんだろうけどなんかちょっと複雑な気持ちだ。
「それでね!キャンプファイヤーには伝説?言い伝え?みたいなのがあるらしいの!!」
「へ、へぇーそうなんだー」
やけにテンションの高い美緒に俺は感情の籠っていない言葉を返す。
「気になる?やっぱり気になるよね!?」
「いや、そんなには──────」
「気になるよね!!」
「あっはい気になります」
俺の言葉を遮りずいっと顔を寄せてきた美緒の圧に、俺は大人しく屈する。
「よろしい、なら教えてしんぜよう!」
「やっぱいいで……あ、続けてください。俺、気になります!!」
無言の圧を感じた俺はもう何も口を挟まないことを諸手をあげて意思表示をする。
「よろしい。んんっ……達成感と興奮が冷めやらない心、しかし楽しい時間は終わりを迎える。私たちの寂寥感を象徴するかのように訪れた夜、そんな夜を照らす大きな炎。思い出話に浸りながら揺らめく炎を見つめる男女。最後だからせっかくと、二人はぎこちない動きだけれどとても楽しそうにダンスを踊る。そしてダンスが終わったその時──────」
ナレーションのように話し始めた美緒だったが、最後の最後で言葉が止まる。
「なんと男の後ろに白い服を着た女の姿があったんですね……」
「ぐふっ」
「違う!せっかく溜めてたんだから邪魔しないでよ颯太!!」
颯太の思わぬ横やりに俺はつい吹き出してしまう。脳内でかなりロマンティックな映像が流れていただけに突然現れたホラー要素に笑いを抑えることが出来なかった。女の子可哀そうすぎんだろ……。
「それで?どうなったの?」
「男の後ろにいる女が──────いでっ!!」
「そこで男の子が女の子に告白して結ばれてその二人は炎の様に熱~い恋をしたんだって。だからキャンプファイヤーの時に告白したらそれはもう幸せなことが起きるって伝説が生まれたの。」
「最後ふわっとしてんなぁ……」
「わ、わき腹が……」
わき腹に右ストレートを喰らった颯太がわき腹に手を当てながら机に倒れこむ。人の邪魔しすぎるとこうなるから皆も気を付けようね……。
「どう?めっちゃロマンない?」
「そうね、美緒ならもしかしたら誰かに告白されるかもね」
「そんな他人事みたいな……」
実際他人事なのだからしょうがない。陽キャイケメン美少女の三匹の中から二匹を選ぶんじゃっていうイベントなのに俺みたいなフツメンが参加できるわけないのだ。どうせ最終日は端っこで炎眺めて「文化祭疲れた~」とか言ってるか参加せずに帰宅するんだよ俺みたいなやつは。
「はぁ~これだから晴翔は。そこは鈴ちゃんを誘って踊ろうとか考えないわけ?」
「鈴乃に誘われたらもちろん承諾するけど俺から誘うことは無いぞ。俺のせいで鈴乃に迷惑掛かったらどうすんだよ」
「変なとこで気遣うんだから……鈴ちゃんも可哀想に……」
「可愛そうにってどういう──────」
「ほらそろそろ休憩終わるよ?まだやることあるんだからテキパキ働いてよね~?」
ぽつりと呟いた言葉に疑問を持った俺は美緒に質問をしようとするも、美緒が席を立ったことで流されてしまう。
「……まぁいいか、ほら颯太行くぞ」
少し悩んだが答えが見つからない気がしたので俺は考えることをやめた。まぁ分からなくてもなんとかなるでしょ。
「ま、待って……想像以上にわき腹が痛い」
「あいつどんだけ力入れたんだよ……」
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