第94話 教えて理子さん part3

「ふ~ん、なるほどねぇ……」


 自分が一度死んでしまったこと、そして気が付いたらタイムリープしていたことを話すと、理子さんは周囲をふわふわと漂いながら俺の話に頷く。


「晴翔君、私が言うのもなんだけど大分奇妙なことが起こってるね」


「自分でもそう思います」


 苦笑いを浮かべながら言う理子さんに俺も苦笑いで返す。お互いの身に非現実的なことが起こっている同士、彼女とは仲良くやれそうな気がする。


「それで?晴翔君はその妹さんのことをちゃんと大切にしてるの?」


「もちろんです。妹の願いは叶え、妹に近づく輩は排除する。これが俺のモットーです」


「うわぁ……これが所謂シスコンってやつかぁ……」


 まるで気持ち悪いものを見るかのように俺のことを見る理子さん。その視線は流石の俺でも傷つくぞ。


「どこで覚えたんですかそんな言葉」


「私は賢いからね、時折生徒たちの話を盗み聞きして勉強しているんだよ」


「そんな言葉勉強しなくていいと思うんですけどね」


 真面目なのはとても良いことだが、覚える言葉を間違っていると思うのは俺だけじゃないはず。もうちょっと他の言葉を覚えた方が良いと思います。


「ま、これで晴翔君の魂が歪な形をしているのが分かったから私は満足だよ」


 そういえば夏休みの時にも同じことを言われた気がする。そのことについても聞こうと思っていた俺は、チャンスとばかりに理子さんに質問する。


「それ初めて会った時も言ってましたけどどういう事なんですか?」


「えぇ~?どういう事も何も前に話したのが全てだよ。色んな人を見てきたからか私にはその人の霊感が強いかどうかとかその辺りが分かるようになったの。例えば、霊感が強い子はご先祖様とか他の守護霊とかにお呪いを掛けられた痕跡があったりとかね」


「へぇ~」


「それで晴翔君の場合だとその魂があまりにも異質すぎたんだよ。今まで見てきたものどれとも似つかない、まるでこの世界の物じゃないような程にね。まぁ案の定この世の人間じゃなかったわけだけど」


 自分では見えないけど俺の魂ってそんなに歪な形してるんだな……まぁ別の世界線から飛ばされたわけだしそりゃ人とは大きくかけ離れてるか。


「……俺って将来変なことになったりしないんですかね……?」


 遠くない未来、俺の魂が動作不良を起こして突然あの世に行ったり、それに近しい何かが起こるのかという不安が津波のように押し寄せてくる。無いとは信じたいが、今の様に現実離れした現象を目の当たりにすると無いとは言い切れない。


「漠然としてるねぇ……う~んそうだなぁ……」


 顎に手を当てながら唸り始める理子さん。しばらく唸った後、理子さんはうんと頷きこちらの目を見つめる。


「確証はないけど多分大丈夫だと思うよ。急に魂が連れてかれたりとかそんなことは無いと思う。だから晴翔君は安心して人生を謳歌してね」


「それは良かった……って言いたいところなんですけど、本当に大丈夫な奴なんですか?」


 大丈夫だと言われても、目に見えないものだとどうしても不安になってしまうのが人間というもの。俺は再度理子さんに対して不安を口にすると、理子さんは目じりを上げてこちらをじっと睨む。


「この理子さんが言っていることが信じられないと?もう!自分で聞いといてそれはちょっと失礼なんじゃないかな?」


「す、すみません……ごもっともです」


 正論をぶつけられ、流石に失礼だったと反省する。自ら聞いたのに今の態度は失礼すぎたな、まじで申し訳ない。


「私は優しいから許してあげる、感謝してね」


「はい、ありがとうございます」


「うん。…さっきも言ったけど、十中八九晴翔君に不都合なことは起きないと思うよ。だって君は今こうして生きているし、私もこうして取り残されている。もし神様がこの不具合を修正するとしたらもっと早く片付けると思わない?」


「た、確かに……」


 言われてみればそうだ、もし仮に俺と理子さんの身に起こっている現象を修正しようとするならもっと早く直すはず。神様と俺たちの時間の感覚が違うとしても、理子さんのこの奇怪な現象はかなり時間が経ってもなおそのまま。それなのに治る様子が無いのを見ると、特に何かが起こるなんて事はなさそうだ。


「でしょ?だから変に心配するよりも今はお姉さんとの時間を楽しんだ方が良いと思うな」


「……そうですね」


「その冷めた目は何かな~?」


 理子さんのナルシストっぷりについ感情が顔に出てしまったらしい。気を付けねば。


「いや、何でもないですよ。それと今日はもう少ししたら帰る予定なので、そんな楽しい時間は過ごせないと思いますよ。気になったことはある程度聞けましたし」


 時計を見るといつの間にかかなりの時間が経っていることに気が付く。太陽もかなり傾いてきているし、帰るには丁度いい頃合いだろう。


「晴翔君は冷たいな~……まぁ時間も時間だからね」


「また遊びに来ますからその時に話しましょう」


「うん待ってる。あ、そうだ晴翔君」


「はい?」


 理科室を後にしようと思ったその時理子さんに声を掛けられる。


「次遊びに来る時は何か美味しいものを用意してくれると嬉しいな」


「美味しいもの……?」


「そう、美味しいもの。出来れば私が食べたことなさそうな奴」


「は、はぁ……わかりました、とりあえずそれっぽいの探してきますね」


「ありがと~。それじゃあ気を付けて帰ってね」


「はい、それではまた」


 理子さんの見送りを受け、理科室を出る。美味しいものを用意しろと言われたが……幽霊だから食べれないのでは?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る