第95話 幽霊とのお昼ご飯

「颯太、今日用事あるから一緒にお昼食えないわ」


「あいよー」


 俺は颯太に断りを入れて教室を出る。理子さんに言われたとおりに俺はいくつかスイーツを買ってきた。


 何故ご飯ものではなくデザート系にしたのかと言うと、持って行ったは良いものの最終的には自分で食べないといけないという結末になる気がして仕方が無かったからである。俺は大食いじゃないから流石に弁当食べた後にまたご飯ものを食べるのはきついのですよ。


「失礼しまーす、理子さん言われた通り買ってきましたよー」


「いらっしゃい晴翔君、君が来るのを楽しみにしていたよ。ささ、早く座って座って」


 満面の笑みで迎え入れてくれる理子さんを見て俺はついつい苦笑を浮かべてしまう。し、下心が透けて見える……透けて見えるのは体だけにして欲しい。


「気になってたんですけど、理子さんって物に触れること出来ませんよね?どうやって食べるんですか?」


 持ってこいと言われた時から気になっていたが、理子さんはどのようにして物を食べるのだろうか。


「晴翔君は初めて私と会った時のことを忘れたのかい?頑張れば私も物を揺らすことくらいは出来るんだよ?まぁめちゃくちゃ疲れるからやりたくはないんだけどね」


「た、確かに……あの時人体模型揺らしてましたね」


 そうだった、つい忘れてたけどこの人俺たちの事脅かしてきたんだった。面白お姉さんという印象が強すぎて頭の中からすっぽりと抜けてしまっていた。


「まぁ今回は別の方法を取るんだけどね」


「別の方法ですか?」


「そう、晴翔君は仏壇とかにお供えしたことはある?」


「したことはないですけど見たことはありますね……ってまさか」


 お供え物という言葉を聞いたところで次に理子さんが何を言おうとしているのか理解できてしまう。そんな俺を見た理子さんはニヤリと笑い口を動かす。


「そう、私にも同じことをして欲しいんだよ。そうすれば私も晴翔君と同じように物を食べたり飲んだりすることが出来るからね」


「……なんとなく予想してましたけどお供え物って本当に効果あるんですね」


「もちろんだとも、お供えをした後は必ず拝むでしょ?あれをすることで死んだ人の元に用意したものが届くってわけ。試しにやってみてよ」


「わ、わかりました」


 俺は半信半疑で買ってきたスイーツ類を前に置き、手を合わせる。そして心の中で「理子さん、スイーツ持ってきました」と呟く。


「お、きたきた。ありがとね晴翔君」


 理子さんの声を聞いた俺は目を開ける。そして理子さんの方へと視線を向けると、彼女の手元には俺が買ってきたスイーツがあった。


「……まじか」


「まじまじのまじ、晴翔君これなんて言うの?ホットケーキではないと思うけど……」


 まじまじのまじとか言うんすね理子さん……。


「あぁ、それはクレープです。それと隣の茶色いのがモンブランですね」


「ほへ~可愛い名前だね」


 目を輝かせ、手に取ったコンビニスイーツを眺める。昨今のコンビニスイーツは尋常じゃないくらい美味しいからね、理子さんもきっと満足してくれることでしょう。


「あ、開け方分かります?」


「うん、多分大丈夫。あ、開いた」


 袋の開け方が分からないか少し心配になったが、問題は無かったらしい。まぁそんな難しい構造してないからすぐに分かるか。


「それじゃあ早速、いただきまーす……お、美味しいっ!これすごく美味しいね晴翔君!」


 大きく目を見開き、クレープを頬張る理子さん。気づいてしまったようだな……クレープの美味しさに。


 「ん~」という甲高い声を出しながらパクパクとクレープを食べ進めていく理子さんを横目に、俺も自分の弁当に箸をつける。


「……晴翔君のお弁当すごく美味しそうだね。お母さんが作ったの?」


「いや、これは妹が作ってくれたやつですね」


「妹さん料理できるの?すごいな~……ねぇ晴翔君、私の言いたいこともう分かった?」


「さぁ?ちゃんと言葉にしてもらわないと分からないですね。あ、うま」


 こちらにすり寄ってくる理子さんを知らんぷりして箸を動かす。やはり鈴の作ったご飯は美味しい、この世で1番と言っても過言ではないほどに。


「意地悪だね晴翔君は。ねぇねぇお姉さんもそのお弁当食べたいな~?妹ちゃんの愛の籠ったお弁当わけてくれないかな~?」


「……」

 

「……分けてくれないと食事中この身体を生かして最大限の邪魔をするよ?」


「どんだけ弁当食べたいんですか」


「だってすごく美味しそうだし~?久しぶりの食事だからさ~」


 自分の顔前にまで迫り、真剣な眼差しでこちらを見つめる理子さんに俺は動かしていた手を止める。最大限の邪魔とかどんだけ食い意地張ってるんだこの幽霊は。


「はぁ、分かりました。食べかけでもいいなら今からお供えするんで」


「大丈夫、私そういうの気にしないタイプだから!」


 ぐっと親指を立てる理子さん、早く食べたくて仕方がないといったご様子。俺は一度箸を置き、両手を合わせて目を瞑る。そして理子さんに届くようにと心の中で呟く。


「ありがと晴翔君、それじゃあいただきま~す……お、美味しい!久しぶりのご飯美味しすぎる!」


 理子さんはグルメ漫画のようにがつがつと弁当に食らいつく。幽霊になってどのくらい経ったかは聞いていないが、それでもかなりの年数が経っているはず。久しぶりに食べたご飯は彼女史上最も美味しいと感じるに違いない。……これから当分の間はご飯持ってきてあげよ。


「ん~美味しい!妹ちゃん料理本当に上手なんだね」


「鈴の作ったご飯がこの世で一番美味しいですから」


「シスコンだ……でも確かに鈴ちゃんが作ったご飯すごく美味しいよ。後で伝えておいてちょうだい」


「覚えてたら伝えます」


 「幽霊が美味しいって言ってたよ」とか伝えられるはずないでしょ。普通に頭おかしくなったのかって思われるわ。


 その後も俺と理子さんは鈴乃のお弁当とコンビニスイーツに舌鼓を打ち、他愛もない会話を繰り広げるのだった。

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