第96話 出し物は君に決めた!

 授業開始のチャイムが鳴ったのにも関わらずクラスの人は鐘の音など気にした様子もなく、仲の良いグループに分かれてがやがやと話を続けている。普段は注意をする側の先生も静かにするよう促すどころか、生徒たちに混ざって楽しそうに雑談を繰り広げている。


「はい、じゃあ文化祭の出し物について決めていきたいと思いまーす」


 皆が浮かれてしまうのも無理はない。何故なら文化祭の出し物を決める大事な時間がやって来るからだ。過激すぎるものでなければ大体は生徒会からOKが出るため、ここで決まったものが実質クラスの出し物になる。颯太から事前に飲食をやる方向とは聞いていたが……出来れば裏方に回りたいなぁ……。


「クラスのグルチャでも言ったけどうちは飲食をやることが決まりました。どういうコンセプトにするかとかをこれから決めていければ良いなと思います。それじゃあ何か意見がある人は随時言ってってくださーい」


 司会進行をする室長のこの一言を皮切りにあちこちでこれはどうだあれはどうと色々な意見が飛んでくる。そのせいもあってか黒板に意見を書き込む書記の人が大変そうである。書記組さん、頑張ってください。


 その後も時間は空きながらも意見が集まり、20個近い意見が集まった。皆良く思いつくなぁ……。


「一旦これで締め切ります。それじゃあこの中から決めていくんですけど……先生、これはちょっと無理そうだなみたいなのとかありますか?」


「うーん、そうだなぁ……例えばだけどこれとかは──────」


 それから先生による審査会が始まり、「やっぱこれ要らないのでは?」という話し合いを経て、あんなにたくさんあった意見も最終的には執事喫茶、メイド喫茶、スペースカフェというラインナップに絞られる。


「はい、じゃあ残った3つの中から多数決で決めたいと思います。何か多数決を取る前に聞いておきたいこととかある人はいますかー?」


「はーい、執事喫茶とメイド喫茶を合体させることは出来ないんですか~?」


 一人の女子生徒が手を上げ、意見を述べる。確かに執事とメイドであれば混ぜてしまっても問題ないと思うのだが……。


 他の生徒も同じことを思っていたのか、あちこちで「確かに」「それな」などの声が上がってくる。


「それについてなんですけど、提供する食べ物と、セッティング、後はその他諸々の費用を考えた時にどっちも用意するって言うのはちょっと難しいかなってことで分けてます。出来ないことは無いんだけど数が少なくなっちゃうから出来れば分けてやりたいかな」


「分かりましたー。ありがとうございまーす」


「え、室長質問です!」


「はいどうぞー」


 今度は男子生徒が手を上げて質問する。


「これってメイド喫茶が選ばれたときって男子もメイド服着るってことですか?」


「そういうことになります。ちなみに逆も然りです」


「まじか……あざまーす」


 男子間にどよめきが走る。かくいう俺も室長の言葉に大きく息を吐いて気持ちを落ち着かせているのだが。


「晴翔メイド服着る?」


「絶対やだ」


「はい、じゃあ決めていきまーす。じゃあまずは執事喫茶が良い人は──────」








「お兄ちゃんのクラスはもう何やるか決まった?」


「うん、決まったよ」


 ソファでくつろいでいると隣に鈴乃が飲み物を片手にちょこんと座り込んでくる。


 紆余曲折ありながらクラスの出し物は執事喫茶に決まった。男子のほとんどはメイド服を着るのが嫌だったのか執事喫茶に投票し、女子のほとんどはメイド喫茶に投票した。


 その結果スペースカフェを除外した決選投票になったのだが……選挙活動を彷彿とさせる男子の演説により僅差で執事喫茶組が勝利を勝ち取る結果になった。ああいう時にめちゃくちゃ舌回る人は浮気した時の言い訳上手そうという勝手な偏見を持っているのは俺だけではないはず。


「何やるの?」


「執事喫茶」


「んっ!?けほっけほっ!!」


「ちょ、大丈夫か鈴!?」


 飲物を飲んでいた鈴乃が俺の言葉を聞いたせいかむせてしまう。俺は鈴乃の背中を優しくさすり、喉の調子が元に戻るのを助ける。


「けほっ……んんっ……もう大丈夫だよお兄ちゃん、ありがとね」


「それならよかった」


「そ、それよりお兄ちゃん!執事喫茶って何!?」


「ちょ、顔近いって……」


 治ったかと思えば、ぐいーっと顔をこちらに近づける鈴乃に、俺は離れるように促す。


「あっ…ご、ごめんお兄ちゃん……」


「大丈夫、それと執事喫茶はその名の通り執事服を着て接客するカフェだよ」

 

「そ、それお兄ちゃんも接客するの!?」


「うーんどうなんだろ……まだ決まってないけど出来ればやりたくはないかな」


「まだ決まってないんだね……後で美緒さんに連絡しなきゃ……」


「ん?何か言ったか?」


「何も言ってないよ、それと絶対似合うから執事服着た方が良いよお兄ちゃん!」


「はは、考えとくよ」


 似合うとは言われたものの、自分の中では全くぴんと来ない。おそらく鈴乃は身内だから似合うと言っているのだろうが、接客のことを考えるなら俺じゃなくてもっとかっこいいやつか、クラスの女子がやった方が人気出ると思う。俺は裏方に徹する方が性に合っているのですよ……。

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