第97話 一生のお願い
「へぇ~……執事喫茶かぁ、面白そうだね。あ、これ美味しい」
「執事服を着ることになるかもしれない身としては素直にそう思えないんですよ」
モグモグとご飯を食べている理子さんに愚痴を吐くように文化祭の出し物について話をする。ここの所理子さんとお昼を共にしている。颯太には少し申し訳ないが、今まで何十年もの間孤独であった彼女のことを考えるとどうしても放っておけないのだ。
「別に着てもいいじゃん、晴翔君案外似合うんじゃない?」
「絶対似合わないですよ」
軽いノリで着てみればいいという理子さんに俺は自虐的な笑みを浮かべながら返事をする。一度自分が執事をやっている姿を想像してみるも、絶望的に似合っていない姿が想像され無駄に心にダメージを負う結果となる。想像しただけなのにめちゃ顔熱くなってくるわ。
「えぇ~着てよ。私も見に行くからさぁ」
「見に行くって……理子さんここから出れないでしょ」
「え、全然出られるよ」
「……まじすか?」
「まじだよ?疲れるから動かないだけで学校の端から端まで余裕で移動できちゃうんです」
まさかのカミングアウトに俺はご飯を食べる手がピタリと止まる。人の霊感とか魂の形とか見れて、学校中を徘徊できるとか割とスペック高いなこの幽霊。
「晴翔君の執事服見に行くから着てよ、一生のお願いだからさ」
「一生って……理子さんは幽霊だから適用されないでしょ」
「気付いちゃったか~」
「まぁ着ることになったら見に来てください、多分ならないと思いますけど」
「そこは絶対に着るので見に来てくださいが良かったなぁ」
「嫌です」
素早く拒否する俺に理子さんは口を尖らせる。自ら執事服を着に行けるほど顔面偏差値が高くないのです。こういうのはイケメン君かノリのいい陽キャに任せるのが一番ですからね。
「……ねぇ晴翔君、一つお願いがあるんだけどいいかな?」
「自分が叶えられそうなものなら良いですよ」
「もちろん実現可能だよ」
「なら出来るだけ協力します。それで内容は何ですか?」
「1日だけ……1日だけで良いから私と一緒に文化祭を回ってくれないかな?」
いつもよりも真面目な雰囲気を醸し出しているからもう少し難しい内容が飛んでくるかと思っていたが……このくらいなら余裕で願いを叶えることが出来る。
「全然良いですよ。まぁ文化祭までまだ期間ありますけどね」
「だから早めに予約しておいたんだよ。いやぁ~今から文化祭が楽しみだなぁ~」
「理子さん文化祭見たことないんですか?」
「いや?毎年見て回ってるよ?」
お願いをするくらいだから見たことがないのかなと疑問に思ったが、そんなことは無いらしい。まぁ日常からは想像できないほどの賑やかさが聞こえてきたら普通気になるもんな。
「でもいつも一人で見て回ってたし、生きてた時も結局文化祭とかに参加できなかったからさ。実は友達と一緒に文化祭を見て回るのずっと憧れてたんだよね~」
「……分かりました、1日目になるか2日目になるかは分かりませんがどっちかは空けておきます」
「ほんと?ありがと~!」
満面の笑みを浮かべ、まるでプレゼントをもらった子供の様にはしゃぐ理子さん。あんな事を言われたら全力で楽しませに行かないとなという気持ちが沸々と湧いてくる。文化祭の出し物が決まったらどういうルートで見て回るかとか考えてみるのもいいかもしれないな。
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